SECURITY SHOW 2002パネルディスカッション

コーディネータ: 三井住友海上グループ
インターリスク総研 主任研究員
藤本正代 氏
パネラー: 警察庁生活安全企画課課長補佐 岩間益郎 氏
文部省科学調査官 戸田芳雄 氏
社団法人日本防犯設備協会専務理事 鈴木邦芳 氏
警察庁科学警察研究所技官 原田 豊 氏
帝塚山学院長 山本 卓 氏

藤本 昨年の9月、大阪府池田市にある大阪教育大学付属池田小学校で児童殺傷事件が起きました。この事件は学校関係者だけではなく一般市民にも大きなショックを与えた事件といえるのではないでしょうか。これまでも学校で発生した事件はマスコミなどでもしばしば取りあげられ、深刻な課題として取り組まれてきましたが、今回のように外部から人が侵入して児童・生徒を殺傷してしまうような事件が発生するようなリスクについて、はっきり申し上げて私ども認識がなかったといえるのではないでしょうか。
一方で、現在多くの学校が取り組んでいる子供を育てる環境作りの一環として、開かれた学校作りという構想があります。今回池田小学校で発生した事件によって、この開かれた学校作りのあり方に関して私どもが見直さなければならないのではないかとの声も聞かれますが、果たして見直しは必要なのでしょうか。
このパネルディスカッションでは、児童・生徒の育成全般を考えるお立場、市民の安全確保を考えるお立場、さらに実際に学校の教育現場を担当してされるお立場などから、学校安全(スクール・セキュリティ)のあり方についてご議論頂きたいと考えております。
このテーマについて順次皆様からご発言を頂きたいと思います。
まず岩間様から宜しくお願い致します。

岩間 警察庁生活安全局におります岩間と申します。私は警察庁に参りますまでに大阪府警で警察官をしておりました。例えば南警察署の刑事とか曾根崎警察署の生活安全課長、あるいは警察本部で防犯関係の仕事を担当して参りました。
その勤務経験の中で、日本では防災やバリア・フリーに比較しまして防犯に対する関心が非常に低いことを私は痛切に感じた時期がありました。しかし現在では防犯に対する関心も高まってきていると思います。
本日は私どもから皆様のお手元に4枚の資料をお配りしております。その資料に沿って、日本における犯罪発生の現状、学校で発生している犯罪の状況、子供たちが遭遇している犯罪の実態などについてご説明致します。
まず第1枚目ですが、これは戦後56年間における刑法犯の発生推移を示すものです。刑法とは日常生活における基本的な刑罰法令で、殺人、強盗、強姦、窃盗などの犯罪を取り締まる法律です。それらの法律に違反し、それを警察が認知した件数の推移が示されています。一見してお分かりになるように、発生件数は急激な右肩上がりで推移しております。昨年1年間に273万5612件の犯罪が発生しました。これは1日あたり7500件、11.5秒に1件の刑法犯が発生したことになります。一昨年の平成12年には244万件の犯罪件数でしたから、約30万件の増加となります。この表によりますと、平成8年から現在までの連続6年間は、毎年、戦後最高の犯罪発生件数を更新していることになります。刑法犯は急激に増加してきています。刑法犯の増加率は平成11年から12年、あるいは12年から13年にかけて10%以上と最悪の状況です。その結果、平成8年からの5年間の間に92万件、151%の犯罪の増加となっています。
 次の2枚目は主な身近の犯罪の推移を示したもので、表の下半分に平成元年を100として示してあります。
ひったくりの増加が最大で被害者の大半は女性です。しかも高齢者で20歳代の女性の被害者が増えていると言われています。犯人を捕らえてみると大阪の場合その61.8%は少年です。しかもそのうち7割は盗んできた単車を使っています。ひったくりは平成元年に比べて昨年は5倍に増えているのです。
 次に多いのは403の指数を示す強盗です。強盗とは被害者の反抗を抑圧して財物を押収するものです。必ず凶器を持ち、非常に凶悪な犯罪です。その次が強制猥褻で、338の指数となっています。その次は車上狙いで指数は222です。平成元年からのわずかな期間の間に日本の犯罪情勢はこのように悪化しているのです。
 それでは次に本日のテーマである学校における犯罪を見ることとします。ここで言う学校とは幼稚園・保育所・専門学校を含む全ての学校のことですが、学校で発生した刑法犯件数は平成12年には36,588件であったのが平成13年には41,606件となりました。平成13年について見ると、犯罪中で窃盗犯が最も多く30,207件、その中では乗り物盗が12,065件です。その他の中に住居侵入が1,771件ありますが、これは正当な理由なく学校の中に入る犯罪で、平成12年の1,355件に比べ400件以上の増加となっています。これと共に急速に増えているのが器物損壊で平成13年には6,687件件の発生となっています。これは少年による校舎の窓ガラスの破損もあれば、泥棒が職員室の鍵を壊して侵入したものの途中であきらめて逃げたという、窃盗の被害はないが扉が壊されたという事件も含まれています。
 最後の4枚目をご覧下さい。これは子供たちがどのような被害を受けているかを示すものです。ここでは年齢的に0〜5歳、6〜12歳、13〜19歳の3区分の被害状況、内数で女性の被害状況を示しております。これによりますと平成13年に未成年者が被害にあった件数はなんと41万件で、その中で殺人は予備罪と未遂を含めて154件ありました。この内で0〜5歳の被害者が実に82件です。次に粗暴犯の被害状況について見ると0〜5歳では138件と少数ですが、6〜12歳では1,980件、13〜19歳では23,082件と急速に増加しています。年齢が進むにつれて傷害、恐喝、暴行などの被害が増えるのです。窃盗犯は自転車を盗られた、財布を盗まれたといった被害ですが、これも年齢が進むにつれて被害が増加しています。風俗犯も同様な被害傾向にありますが、0〜5歳のところで120件もの強制猥褻の被害があるのです。
 以上、本日は4枚の資料を中心に日本における犯罪情勢をご理解頂き、学校セキュリティをご検討頂く上での参考として頂く目的で、警察庁としてご説明申し上げました。

藤本 岩間様 有り難うございました。
引き続来まして、戸田様宜しくお願い致します。

戸田 文部科学省で安全教育を担当しています戸田でございます。本日は2点についてご説明させて頂きます。前半では文部科学省として池田小学校の事件を受けた小学校の安全管理等に関わる対策・施策についてご説明申し上げます。後半で事件発生を受けた文部科学省としての小学校のセキュリティに対する考え方を、若干解説的になりますがご説明申し上げます。
 6月8日の池田小学校における痛ましい殺傷事件の発生を受けまして、文部科学省は事件発生の当日に文部科学大臣談話を発表し、学校関係者、保護者並びに一般国民に対して、学校の内外における学校安全管理に関する緊急点検をお願い申し上げました。先ほどの警察庁のご説明にありましたように、学校のある地域社会も安全の観点から見ると、子供たちにとっては厳しい状況にある訳なので、広く一般の方々にもアピール申し上げた次第です。実は6月8日以降、池田小学校事件を模倣したような事件も発生しました。そこで6月11日には問題点を若干整理しまして、類似事件の再発防止のための緊急通知を発表致しました。さらに6月13日には文部科学大臣が衛星通信ネットワークを通じて再度教育関係者並びに一般向けにアピールを発表致しました。
6月21日には文部科学省内に学校安全管理のあり方に関する省内検討会議を設置して、事件に対する緊急対応と今後の中・長期経過対応を含めた学校安全管理に対する考え方の検討を開始致しました。この会議での検討結果及び関連委員会での点検結果を頂いて、7月10日には教育委員会及び学校に対して、緊急対策会議のあり方、あるいはこれまでの緊急点検の結果としての対策実施例などを、大項目だけではありますがお示し致しました。具体的には、出入り口の限定とか立て札・看板の設置、あるいは来訪者の入校章・名札の着用、校門・フェンス・外灯・鍵などのハード面の点検整備、さらに非常電話・ベル・ブザーの設置や一部では防犯カメラの設置などの諸項目をお示しするとともに、ハード面に関わる費用については国としても特別地方交付税の措置あるいは地方債の起債も認めるという内容の緊急対応策をお示ししました。
ご承知のように、平成11年12月21日に日野小学校で1年生が校庭で殺傷され、犯人は残念ながら自殺したという事件がありました。その事件を受けまして平成12年1月7日に、学校における防犯意識の向上と、安全点検項目の具体例を示して教育委員会通知で各学校に周知して頂くようにお願いしました。しかしそれがなかなか徹底されていなかったことが分かりましたので、今回の緊急対策ではそれの点検項目をより具体的で分かりやすくし、その点検に基づいて中・長期対策も考えてほしいとの内容で各学校及び教育委員会にお示ししたのです。
国としても平成14年度には新たに「子供安心プロジェクト」を立ち上げ予算も措置しまして、学校の安全管理に関する取り組みの事例集を出したり、都道府県政令指定都市で各一ですが小学校区で地域ぐるみの学校安全推進モデル事業を展開しまして、その中での優れた実践事例を広めてゆく手がかりにしたいと考えております。この点に関しましては警察庁の防犯関係施設の整備とできるだけ一体化して各都道府県で進めてほしいと言うことで、内々に準備を進めております。そのほかに、省内の他の部署では学校施設の安全対策推進事業も進めています。以上が学校安全管理等に関わる対策・施策の概要であります。
次に、学校のセキュリティに関する文部科学省の考え方の概要をご説明致します。言うまでもなく学校は子供にとって学びの場でありますが、それが保証されるためには質のよい豊かな教育が実践されなければなりません。それを支える意味で、セキュリティ及び良好な施設管理を含めた安全管理が確実に実践される必要があるものと考えております。
このように教育とセキュリティを含む管理を両立してゆくことが学校では非常に重要であると考えております。今回の池田小学校事件の後では、とにかく管理を徹底すべきであるというようなことで、全ての学校で門は閉鎖して出入りをできるだけ制限するといった一律的な考え方も聞かれます。しかし学校は教育の場であり地域の方々とも交流する場でもあるという基本的な考え方からすると、このような一律的な考え方は問題があるのではないでしょうか。どのように教育と管理の両立を図るためにどうしたらよいかを考える必要があります。
この問題の解決には非常に時間がかかり、ある意味ではまどろっこしくて直ぐに効果は上がらないかもしれません。子供も大人も社会全体を含めて、人命、安全、人格、個性を尊重する人もあれば、ある人は自己中心で自分さえよければ他の人の命や安全などはどうでもよい風潮があるのも事実です。この点に関して政府では平成11年12月28日の報告書で「安全文化の創造」を謳っております。この報告書は、全ての経済活動、行政活動、民間の様々な活動の中で、人々が自分も他人も含めてお互いの生命や安全を尊重していく気風を育てて行くこと、それを実現するための能力や資質を育ててゆかねばならないとの考え方をまとめたものです。その考え方の下で防犯教育も広く進める必要がありまして、過去のことになりますが平成10年には小学校の低学年と高学年用の2種類の「犯罪の被害にあわないために」という印刷物を全ての小学生に配付して、家庭も学校も防犯について考えて頂くことしました。これは文部科学省始まって以来の出来事で、これによって通学犯罪の被害にあわないように考えたのです。そのほかにも教材映画を作って各都道府県の公立フィルムライブラリーに配付して、各学校の防犯教育に役立てて頂くなど、地道に防犯教育を進めて参りました。
 このように教育の中で子供たち自身が生命とか安全を大事にする気風を育てていくことを大前提とし、それに併せてセキュリティを含めた安全管理も大事にすることを進めて参りましたが、それにしてもこれまでは学校の防犯に関わる認識が非常に薄かったということは事実でありました。
 そこで平成13年8月31日付けの通知では安全管理について再度徹底してほしいと言うことで、平成12年1月7日で示された点検項目より一層強めの校内体制の整備、学校で犯罪が起こらないような対策の検討、起こったときにどう緊急時に対応するか、あるいは自校内では施設・設備をどう維持していくのかと言うことを点検してゆく中でハード・ソフトの点検を行い、併せて家庭や地域との連携を進めて地域ぐるみの安全を展開するようにお示ししております。
 最後に開かれた学校作りについて申し上げます。学校施設を開放することが開かれた学校作りであるかのような誤解がありますが、施設の開放は開かれた学校作りのごく一部に過ぎないのです。日本では社会体育の公共施設が少ないという実情から、社会人が夜間または休日に学校の施設を利用することは、開かれた学校が叫ばれる以前から進められていました。これは開かれた学校作りの主たるものではありません。
 開かれた学校作りとは質的なものであります。これまで学校は画一的、硬直的、閉鎖的であるといわれており、子供たちを国際社会の中で活躍できる人材に育成するという視点からするとこれでは不足であります。そこで、学校が持っている情報や教育機能を地域に開きまたは還元したり、地域から学校教育に様々な助言を頂いたりして、子供たちのニーズに対応できるようなより質の高い豊かで多様な教育を保証しようとするものであります。
 従ってこの開かれた学校作りについては当然にこれからも極めて重要な内容であり、先ほどの安全管理と両立するものでないといけないと考えております。

藤本 戸田様 有り難うございました。
続きまして鈴木様、宜しくお願いいたします。

鈴木 私は社団法人日本防犯設備協会専務理事の鈴木でございます。私どもの協会は犯罪の防止を施設・設備の設置・運用面、いわばハードの側面から犯罪の防止を図るものです。本日は学校のセキュリティと言うことですから、その点に限定してお話申し上げます。
 これまで学校あるいは生徒に対する犯罪は、夜間に侵入して先生のへそくりを机の中から盗るとか、トイレに入って女生徒にいたずらするとか、部活で着替えをしている女生徒にいたずらをして逃げるなどの犯罪が主に問題になって来た訳で、外部から侵入した犯罪者が生徒を殺傷するといった例はなく、その様な事態への対策は考えて来なかったのが現実です。
 子供の送り迎えのことですが、子供を学校へ送り込めば安全だ、学校から家までが不安だと、事実、児童の誘拐事件は学校の往復で発生していました。しかし今回の池田小学校事件はそれと全く状況が違います。
先ほどの文部科学省のお話に指摘されました1999年12月21日の日野小学校の事件についてですが、この事件が発生したとき私どもの協会はこの事件が私ども協会の対象となる事件であるかどうか、つまり防犯施設を整備・充実することによってこの事件が防止できる犯罪であったのか、あるいはこの事件の発生を防止するために私ども協会としてなにをなすべきかということを直ちに検討する問題意識が、実はなかったのです。それというのも、犯人が長い間逮捕されなかったので、なぜこの事件が発生したのか分からなかったのです。
 しかし今回の池田小学校の事件では犯人は直ぐ逮捕されました。彼の犯行中の状況や逮捕後の動向はつまびらかに報道され、全体像が明らかになりました。そこでこのような犯罪に対する防犯施設はいかにあるべきかということに直結しました。翻って考えてみますと、日野小学校の事件も池田小学校の事件と全く類似の事件であった訳です。
 この日野小学校の事件をやや詳しく見ますと、被疑者はあの小学校の卒業生ではありませんでした。小学校生徒と彼の間に面識は全くありませんでした。彼はあの小学校の近くに住んでいたのでもありません。その彼がなぜあの小学校に侵入したのでしょうか。事件の関係者に詳しく聞きましてもその理由は分からないというのが真相です。彼は教育制度に対して批判を持っていたようです。本人は高等学校を留年して4年で卒業しましたが、この4年で卒業させられたことが学校側として自分の意見を尊重してくれなかった、すなわち自分は中退して大検を受けたかったのに4年で卒業させられたと逆恨みをして、教育行政に対して不満を持っていました。
(注:この箇所は新聞報道と異なる。本人は留年したかったのに、学校が3年で卒業させたことに対して恨みを持っていたというのが新聞報道。)
 それではこれが犯罪の原因かというと取調刑事はそうと思えないとのことです。もしそうであれば文部省か学校に爆弾を投げるのであれば理解できるが、なぜ関係のない小学生を殺したのかという疑問が残る訳です。
 池田小学校事件もこの日野小学校事件の延長といえるとも思います。ご案内のように、犯罪の動機は痴情・怨恨・物盗りといいます。愉快犯も加えるべきともいわれます。あるいは無差別に人を殺傷するという事件も発生しましたが、毎年数件、痴情・怨恨・物盗りという従来の犯罪動機に当てはまらない犯罪が発生しているのです。日野・池田事件もこの動機不明事件の一つであろうと私は思っています。従って施設を整備することでこの種の犯罪を防ぐようにしようということで、急遽、スクールセキュリティガイドを作成し皆様にお配りした次第です。 これは警察庁と文部省の全面的なご協力を得て作成致しました。
 防犯設備を充実することによって、今後この種の犯罪を防いでゆきたいし防げるだろうと考えます。先ほど申し上げましたように、件数は多くありませんが動機のない不明確な犯罪に大して対策をとって行かねばなりません。その思いでこのパンフレットを作成しました。どうか宜しくお願い致します。

藤本  有り難うございました。
それでは原田様宜しくお願い致します。

原田 科学警察研究所の原田と申します。私ども科学警察犯罪予防研究所の防犯少年部犯罪予防研究室におきまして、最近コンピュータを使った地図情報システム(GIS)を利用して、地域における犯罪状況分析とか犯罪動向予測についての研究を行っております。
 本日は欧米の状況などを参照しつつ、このGISが学校のセキュリティに貢献できる可能性についてお話を申し上げたいと思います。
 今回の池田小学校事件の後、アメリカではこの種事件をどのように取り扱っているか調べてみました。そこから感じたことは、米国では、過去の事例に照らしながら現在の状況をシステム的に分析し、その分析結果を次の対策として生かすための研究、換言すれば分析からデータを作ってそれを次に生かすことが、日本よりもかなり力を入れて継続的に行われていることでした。その分析のツールとして地理情報システムが利用され、犯罪科学対策として一般の方々にもかなり注目されています。
 地理情報システムとは発生した事件を文字や記号で示したデータベースと、カーナビなどで利用されているデジタル地図とをコンピュータ上で統合したもので、こうすれば地図上に何がどこで発生したかが最小限の人手で自動的に画面上に表示されます。それに基づいて事件の状況分析ができる訳です。これを我々は「地図の顔をした情報システム」といっております。
 この地理情報システと学校での犯罪予防との関係ですが、事件の直後にNHKが作成したコンピュータグラフィックで池田小学校の状況をご説明します。まずこの箇所は学校の事務員さんが常駐する詰め所で南西の角にあります。この位置からは学校の正門と裏門がよく見えるのですが、犯人が侵入した自動車通用門はこの詰め所からは体育館の陰に入るので死角になっています。犯人はここから体育館の裏を通り、詰め所から見える位置に到達したときはかなり教室に接近していました。
 ここからが問題ですが、この近くにある校舎の外に向いた入り口には鍵がかかっていませんでした。犯人はこの入り口から校舎に入り、まず2年生の教室で犯行に及んだのです。次に同じ所から出て隣の教室を通ってその隣の教室に入り、今度は廊下に抜けるという動線を辿ったのだそうです。この間に犯人は延べ7カ所の扉を通っていますが、その間どの扉にも鍵がかかっていなかった、または外から扉を開けられない仕組みになっていなかったのです。
この点、環境設計における犯罪予防という観点から見ると、犯罪弱者である小学校1・2年生が集中し、セキュリティのコアとなる場所のセキュリティのあり方に問題があったといえましょう。これはどこの小学校にも共通した問題かもしれません。
 NHKのこのビデオは素晴らしいものですが、これは犯罪の発生後に作られたものです。ところがアメリカには「スクール・コップ」という学校向けのソフトがインターネットで公開されています。これは簡単なものではありますが、学校のセキュリティ管理用地理情報システムの応用ソフトです。これはアメリカの国立司法研究所がファンドを出して学校セキュリティ技術に関する研究を募ったところ、その応募成果の一つがスクール・コップでありました。
 このスクール・コップは地理情報システムで、過去校区内で発生した事件あるいは校則違反のデータを入れ、赤は全事件で緑は凶悪事件であるとなどと区分・保存するものです。
 ご存じのようにアメリカでは1999年4月にコロンバイン高校での銃乱射事件が発生しましたが、それ以前に国立司法研究所はすでに学校セキュリティ技術に関する研究を募集しており、その様な支援を国が早くから立ち上げていたことは素晴らしいと思います。
 このシステムで縮尺を変えますと学校内の配置図が示され、学校の入り口付近の見通しや死角、あるいは校内での事件発生状況がデータとして保存・表示できます。アメリカではこのようにして、データを生かし利用することが日本よりも進んでいたものと思います。
 環境整備によって犯罪を予防するという観点の他に、アメリカでは緊急事態が発生したときに生ずる様々な問題への対応の仕方が指摘されています。
 例えば、緊急事態で非常ベルが校内に鳴り響き、その音があまりにもうるさく警官や救急隊員の連絡に支障が生じたが、さてその非常ベルを止めるスイッチの位置が分からなかったとか、あるいは校内のフロアープランが分からないために教室の配置や劇薬のある理科室の所在が不明で、救急活動に混乱を生じたこともあったのです。
 この点に関しても事前に情報システムがあれば救援に駆けつけた関係者に直ちに配付でき、それによって緊急時の救援活動も変わって来るだろうとのことで、この分野に地理情報システムが活用できるとの提案もあります。
 ところで学校における犯罪予防は学校だけ、あるいは警察だけでできるものでないと思います。先日、日本全国の交番・駐在所数を調べたところ、約1万5千弱あることが分かりました。これに対して小学校は2万5千カ所、中学校は1万1千カ所です。現在全ての交番に警察官が配備できていない情況下で、その約2倍ある小・中学校の全部に警察の手が回るかといえば、なかなかそうはいかないと思います。この問題は関係者が協力して対策を講ずる必要があります。
この対策の第一歩は現状に関する情報を関係者が共有することから始まると思います。米国シカゴの例では、「シティズン・アイテム」と呼ぶシステムがあり、これはインターネット上で誰でも見ることができます。
インターネット画面の下部で地域と事件の種類を選ぶと、自動的に過去の事件の発生状況が地図上に現れます。このようにインターネットGISと犯罪発生情報を複合して、一般に提供しています。
 このように犯罪データを一般が共有し、学校の問題は学校の中だけにとどめず地域の安全という広い文脈の中でとらえることが必要なのかなと思っています。
 我々もマッピングを取りあげており、例えばひったくりの発生状況やその集中度を過去5年にわたって調べました。その上で生徒の生活圏と犯罪発生の関わりを地区別に比較したり、暴行傷害事件のマップを見ますと駅の周辺に集中しているという特徴があります。
  このような犯罪分布の特徴をふまえながら対策を考えるのと、漠然と考えるのとではずいぶん結果が違うのではないかと思われます。  池田小学校の事件はそれ自体をとりますと50年に一度の話かもしれませんが、そこから学ぶべきものとしては、守備範囲を広くとるとどうしても手薄になりますから、範囲を狭めそこだけは絶対に守ることとし、そのための対策を考えるのです。次にそこから視点をズームアウトして、地域という広い文脈の中から学校のセキュリティ考えるのです。この両面においてGISはそれなりに貢献できる可能性があると思います。

藤本 有り難うございました。このように立体的な図になっていると非常によく分かるという感じがしました。
最後に山本先生、宜しくお願いいたします。

山本 教育の現場で何が起こっているのか、どのようにセキュリティを考えているのか、我が校ではどのように子供たちを守ろうとしているかを、ビデオをご覧頂きながらご説明申し上げます。
 当校は私立学校ですから広範な地域から子供たちが登校してきます。全ての子供を守るには子供が家を出たところからというような議論もありましょうが、私どもの学校では、朝、上町線と高野線の駅に職員が出向きまして子供たちの登校を見守ります。道路の交通量が多いので、道路の横断も指導します。さらに子供たちに挨拶運動の指導も行います。
 私どもの学校の中・高は女子校であります。従って私が学校へ就任しました当時から通用門は時間が来たら閉門しています。そして普段は守衛室のある正門だけを開いています。登下校には通用門を開き、職員もしくは教員を配置しています。保護者の来訪については、事件後、保護者カードを作り全員に携行して頂いております。業者については入門時に社名と氏名を記載して貰い、入門時間を守衛が記入し、胸にバッジを付けて頂きます。
 今回の池田小学校の事件を見て私たちがたいへんだなあと思っていることは、突然の侵入者に対してどのように対処できるかということで、それが不安な点でもあります。
当校では、トイレに人が入れば点灯し、人がいる限り点灯し続けるようにしました。また当校のある姉妹校では一般の人が通り抜けできる場所が十数カ所あり、通勤の際に学校を通っていましたが、これを閉鎖しました。
他校では通用門については職員を配置し登下校時以外は正門一カ所だけを開く学校や、インターフォンを付けて門を閉めている学校もあります。 犯人の侵入に対して、ある学校では長い警棒を教室に備えました。又ある学校では消火器を教師側の机の横に置いて、侵入者に対応できるようにしています。
まもなく当校では、各教師に発信器カードを配付しますが、このカードのボタンを押すと、事務室と職員室にあるボード上で、どの教室から警報が出たのかが分かる仕組みです。これについては子供たちにも周知徹底させ、緊急時のみに使用することを教え込んで行くつもりです。

藤本 有り難うございました。先生の学校は日本でも防犯面で優れた学校とお聞きしておりますが、ビデオを拝見してその辺りが見えて来るという感じが致ししました。
学校のセキュリティについてはそれぞれに対策が行われていますが、各講師のお話を伺ってきますと、そのセキュリティについていくつかの課題があるように感じられます。
それらを整理してみますと、まず、犯罪は急速に増加しているがその事実に対する認識が不足しているのではないか、その認識が浸透しないので対応が不十分になっていることが課題であります。現場でもそのような危険性の増加が感じられています。 次に、児童・生徒を守るためには学校だけの問題としてとらえるのではなく、地域・コミュニティを含む環境作りが必要とのお話が出て参りました。
これらの点がこれからのディスカッションの中心になるものと思います。
本論に入ります前に、本日のご発言の中に池田小学校の事件は50年に一度のぐらいしか発生しないケースだとのご発言がありました。他にも色々問題を抱えておられる小学校として、50年に一度しか起きないような事件に対して本気で取り組む必要があるのかとのご意見もあろうかと思います。この点についてどのように考えたらよいのか、どなたかご発言を頂けないでしょうか。

岩間 確かに宅間というような被疑者が我が国でたびたび出てくるとは考えられないかもしれません。しかし先ほどから申し上げましたように、犯罪情勢は年々非常に悪化してきております。それも我々が想像する以上に悪化してきています。
 幼い子供が学ぶ学校はもっとも安全な場所でなければなりません。その様な場所の治安の状況は、日本の治安レベルを推し量る上からも、大人の誰もが考えていかねばならないことと思います。

藤本 有り難うございました。
 ただいまのご発言にありましたような問題意識を皆が共有することが大切なのですね。  問題意識を共有するということは、今回のディスカッションの中心課題である「児童・生徒を守るために学校だけの問題ではなく、地域コミュニティを含む環境作りが必要」という点にも繋がって来るのではないかと思います。つまり学校関係者と地域の人々の問題意識の共有ということですが、これはまさに「開かれた学校作り」と安全確保をどうやって両立させるのかという点に繋がってくると思います。  この課題の議論を始めるに当たって、興味深いアメリカの調査研究をご紹介したいと思います。これはコーチ・クライム・インスティテュートという機関の研究で、刑務所の防犯対策と学校の防犯対策を比較したものですが、その結果この二つは非常に似通っています。防犯カメラを設置し入り口は閉じてしまい、外部に対して高い塀で守ってしまうといった要塞型セキュリティなのです。
 学校はその様な要塞型セキュリティ一辺倒では、子供を育てる点ではいけないのではないかとも指摘されています。
 しかし安全を守るには機器の設置が必要だということもあります。
 これらの点について鈴木様のご意見をお伺いしたいのですが、今、学校ではどのような形で防犯設備が整えられ、どのように使われているのでしょうか。

鈴木 (注:カセット切り替え中で録音なし。) ・・・これほどの被害者が出るかどうか分かりませんが、半狂乱で学校に侵入して暴れるという事件が残念ながら3〜4年の中に起きると思わざるを得ません。どの犯罪統計を見てもその傾向があることを示しています。ただ50年に1回なのか3〜4年に1回なのかは余り口に出していうべきではないと感じています。
 防犯機器についてですが、先ほど帝塚山の山本先生のご説明にありました帝塚山の事例は本当に模範的な例でありまして、実際の所ほとんどの学校ではこのような形態を、少なくとも池田小学校事件までは採用していませんでした。犯人が死角を出入りした、7カ所に鍵がかかっていなかったことなどは池田小学校だけではなかったのです。
 しかしあの事件以降、文部省の指示もありまして急激に改善されつつありますが、次の点に注意が必要です。第一に、外部から顔を知らない人が入ってきたときに、教職員にそのことが直ちに分かるシステムにして頂きたいのです。これには機械を設置すれば簡単に実現できます。出入り口が4〜5カ所ある時は、2カ所ぐらいにして、そこに施設を設置して出入りする人を識別できるようにして頂きたいものです。第二に異常事態が発生した場合に、全教職員がその発生を直ちに分かるようにして頂きたいのです。最後になりますが異常事態にはボタン一つで警備会社や警察に直ちに連絡ができるシステムを設置して頂きたいと思います。
これらのシステムを検討してお作り頂くために、スクールセキュリティガイドが3月15日にできあがりますので是非ご活用下さい。 ただ問題点として学校関係者やPTAとの間で、このような施設設置にご賛同が頂けるかどうかということです。通用門の閉鎖やカメラの設置については、府警、地域、教職員の方々が不便性や経費の面で反対されますとなかなか実行しにくいものです。
又、どこにどのような設備を設置するかについて、現場ごとに防犯設備士から必要最小限度の機器に関してアドバイスを得て実施して頂きたいと思います。
当協会として防犯設備士を養成しており全国におられます。防犯設備士の名簿は、毎年、警察本部生活安全課にお渡ししております。  一言追加しますと、学校の内外あるいはその近くでは、新聞に報道されない事件があるものです。その様な情報を関係者の間で共有して頂くことも重要であります。

藤本 防犯設備の設置に関して、地域あるいはPTAの方々のご賛同が得られるかどうかは、そのことを話し合う場が必要と思います。 ところで先ほど極端な例として、要塞型セキュリティについて話をさせて頂きましたが、学校の防犯対策のあり方と要塞型セキュリティの関連についてどのように考えればよいのか、岩間様のご説明を頂けないでしょうか。

岩間 防犯対策にはソフト的手法とハード的手法があります。要塞型セキュリティはハード的手法を最も突き詰めた形であるといえます。例えばアメリカの一部で非常に犯罪が多発する所では、町全体を要塞で包み、家には銃砲があり、学校の中へは生徒か教職員以外の部外者を入れない、これがハード型手法の突き詰めた形となります。犯罪情勢が非常に厳しくなると、このような形をとらざるを得ないではないかと思います。
 ただソフト的手法でまだできることがあるのではないか、ハードとソフトのバランスをうまくとって防犯対策を考えることが、日本ではお考え頂くのがよいのではないでしょうか。

藤本 有り難うございました。
 児童・生徒を育成するという視点から見て、ソフト的な防犯対策へのアプローチについて、戸田様のお考えをお聞かせ下さい。

戸田 これからのあり方に関しては先ほど申し上げましたように、子供たち自身が安全や生命について考えて行く、あるいは相手の人格や個性を尊重するといった、質の高いより人間的な意味合いでの成長を生み出す努力が重要だと思います。
 ところで学校における防犯施設は、全ての地方の全ての学校が全て同じ施設・方法で設置することはいかがかと思います。
 先週、私は中国地方のある小学校と中学校へ安全及びセキュリティ問題で視察に行ってきました。
 ある都市部の小学校の例ですが、ここは県庁所在地で繁華街と住宅とが建て込んだ一角にあります。以前、この学校の塀は高く植え込みもよく整備され、意図的に侵入しなければ校内に入れないという、要塞型施設とはいわないまでもそれに近い閉鎖型な施設管理を実施していたそうです。
 ところがこの学校は夜中の不法侵入が多く、若者が校内で酒盛りをして挙げ句の果てに玄関や教室のガラスを破損したり、飲み物の瓶や缶を散乱するなどのいたずらがひどかったのだそうです。ところが塀や生け垣が高いので、付近の人はそのいたずらに気が付きませんでした。
 この学校ではPTAや地域の方々と協議した結果、学校の内・外部からの死角を減らそうということで植え込みをこざっぱりと刈り込み外からの見通しをよくしました。また出入り口をできるだけ限定することにして、登下校時には2カ所、その他の時間は1カ所だけを開くことにしました。
 その結果、不法侵入が発生したときには近所の方が直ぐ気が付き警察に通報されたので、一味は一網打尽で捕らえられたとのことです。その後あの学校に入るとまずいという情報が流れたせいか、その後夜間の侵入はなくなったそうです。
又私は山形出身ですが山形にはがっちりとした防犯設備を施した学校はほとんどありません。学校へは簡単に跨いで出入りできる状態です。
このような環境の中で、保護者や地域の方々が学校の花壇の整備に来られたり、挨拶運動にご協力頂いたり、善意のある市民が常時校内に出入りされるのです。そして多くの人たちの目が不審者を見つけて学校へ連絡してくれたり児童の安全を見守ってくれているのです。
このような信頼関係の中で、地域ぐるみで子供を育て守って行こうという雰囲気が、この地方では施設の充実に優先し機能しているのです。
 私は、学校のおかれた地域の実情に応じて、安全・防犯対策は検討されるべきではないかと考えます。
岩間 一言付け加えさせて頂きます。
 今警察では環境設計からの安全・安心町作りに取り組んでいます。
これまで警察のパトロールや地域住民の活動などの連携によって地域の安全活動が進められてきましたが、これだけ犯罪が増加するとソフト面の対策だけでは犯罪の発生に歯止めがかけられません。今取り組むべきことは必要最小限のハード的対策で、これは学校の安全・防犯でも同様であります。もちろんソフトとハードの対策のバランスをよく考える必要はあります。
例えばひったくりが続発した東大阪市では、街頭に監視カメラを1台設置しただけでそのひったくりが全くなくなったのです。このように防犯施設を適切に利用すれば犯罪予防に効果的に役立ちます。今の時代はその様な防犯施設の経費が必要であることを理解しなければならないと思います。

藤本 ハードとソフトの防犯対策を両立させながらうまく使うには、学校作りに地域の人をご参加頂いて一緒に考えることが必要であると思われます。
 山本様の学校では保護者、地域の方々と情報交換しておられるとのことですが、具体的な内容をお聞かせ下さい。

山本 私どもの学校へは大阪全域から子供が通学して来ますので、保護者の方々を各学年・各クラスに割り振りをして、全保護者が年に1回は必ず子供とご一緒に登校して頂いております。そして登下校の途中にどのようなリスクがあるのか、何が起こっているのかを把握して頂いています。
 保護者以外に、私どもの学校には同窓会という学校卒業者の組織があります。この人たちも動員して安全点検をして頂いております。
 地域の方々については、学校が保護者を呼ぶ体育大会や七夕祭りなどの各種の行事に地域の方々も招待申し上げ、その際に平素のご協力にお礼申し上げております。
 又我が校の挨拶運動は学校内の挨拶だけでなく、保護者や毎日会う地域の方々にも生徒が挨拶するように指導しております。実は学校の近くに難しい方がおられるのですが、私も子供もその方に挨拶している中に先方から話をして頂けるようになり、子供の挨拶が上手になったなど、情報が頂けるようになりました。
地域の方々から何でもよいから情報が頂ける間柄になるように、各種の運動・行事を通じて努力しております。

藤本 山本様の学校では学校としてのセキュリティ管理と保護者・地域との関係をうまく組み合わせて、児童の安全管理を実践しておられると感じました。
 学校における防犯対策についてはいろいろ研究が行われ、その成果がやがて実践されることになると思います。防犯環境設計とかGISを含め、これらの点を整理して原田様の方からご説明頂きたいと思います。

原田 学校の安全とは、地域における安全の確保あるいは地域を安全にするための関係者との連携・協力による安全な町作りから切り離して考えるべきものではないと思います。
 ところで先ほど鈴木様からのお話にもありましたように、どのセキュリティを考えるときでも、必ずゾーンの切り分けを行うと思います。例えば第1次警戒線とはこの範囲、すなわち学校の敷地に人が入ってきたら分かるようにすることが第1ゾーンの設定といった具合です。これに対して小学校の1・2年生が集団で教室にいることをいることを第5ゾーンとか第0ゾーンと区分して考える訳です。
 この区分を逆の方向に延長して考えると、広い方のゾーンとして地域全体の安全になります。学校の児童は地域のあるところから学校へ登校し学校が終わるとそこへ帰ります。日曜・休日には地域の中で暮らしています。従って地域の安全状況によっては学校安全のあり方も変わってくると思います。
 先般の池田小学校事件を米国新聞が母国に報道したとき「6歳の子供が一人で歩き電車に乗って通学するような日本では」と日本を紹介していました。アメリカから見ると日本のこのような安全環境は極めて特異に見えるのかもしれません。
学校の中と外を切り分けることは、このような見方からすると、いくつもある地域の切り分け方の一つに過ぎないのかもしれません。地域の安全の一環としての、あるいは町作りの一環としての学校の安全という見方が重要なのではないかと思う次第です。
 次に立場の違う人たちが相互に協調・協力・理解するには、出発点として何に基づいて考えればよいのでしょうか。考える材料を関係する人たちが共有する必要があります。GISからの情報もその材料の一つだと思います。現在は情報の時代、ITの時代ですから各種の情報ツールを活用し、そこから得られた材料を蓄積し、増やし、豊かにすることが考えることの出発点だと思います。
 これを可能にするために、情報ツールは操作の難しいものであってはいけません。
誰でも使え値段も手頃なものでないといけません。この意味で先に説明しました米国の例では、国の機関が率先する形でソフトを開発し、無料でインターネット上に公開し、多くの人に試験的に利用して貰ってさらに改善のアイデアをふくらまして行くことを行っていますが、これはたいしたことだと感じます。
 ところで阪神淡路大震災の後、京都大学防災研究学の亀田先生のグループから緊急レポートが出ていますが、その中の報告テーマの一つに「緊急時に使う情報システムは普段に使っているシステムから切り離れたものではいけない。」と述べられています。緊急時には誰しも精神的に動転しています。ですから普段使っている機器のある一つのボタンを押せば、最小限の情報が即座に必要な場所に伝達できるようになっていないといけないのです。多くの情報を発信するために複雑な操作が必要であれば、緊急時には誤って間違った情報を発信しかねません。
 ですから普段使い慣れた情報システムとして安全・防犯データの蓄積・分析・共有ができるように考えていくことと、その延長ということで緊急時に使えるような機能を付加しておくことが、学校セキュリティ情報システムには必要なことではないでしょうか。
 なお、緊急事件がどれぐらいの頻度で発生するのかということですが、池田小学校で発生したような事件に限定すれば、あるいは50年に1回程度かもしれません。しかしそれとは違う形の事件、あるいはもっと身近な事件は非常に多く発生するかもしれません。
 千葉大学の中村先生は子供たちに危険な状況の経験の有無をアンケート調査したところ「学校内でちょっと危ない目にあった」という回答を含めて、調査を行ったどこの地域でも調査対象の子供たちの3〜4割は危険な目にあった経験があったのだそうです。ですから子供たちを取り巻く安全系の問題は、もしかすると我々が思っている以上に身近にあるのかもしれません。それに対する備えが大切だと思います。

藤本 「??(聞き取り不能)という学問?」がありまして、その中に「ゼロリスク要求」という言葉があります。それは社会的に絶対に起こってほしくないという要求です。原発事故とか感染症とかはこの要求から見ると高いランクに上げられるのですが、学校の中に外部から人が入ってきて児童を傷つけることは絶対にあってほしくない、ゼロリスク要求の高い事柄だと思います。その様な意識をいろいろな立場の人が共有することがこれからの学校セキュリティを展開する上で重要だと思います。
  一方、子供たちを守るために高い塀を築いて犯罪から守るという要塞型というのは子供の育成の側面からはそぐわないでしょう。機械を使ったしっかりした警備と、地域・コミュニティとコミュニケーションをとりながら安全対策を講ずるソフト型の対策との組み合わせが、今後、学校における安全・防犯対策の主流になるのではないでしょうか。
 この点、すでに米国カリフォルニア州では「安全近隣パートナーシップ計画」というプログラムが実施されて効果を上げています。また「子供安心プロジェクト」もすでに始まっているとのお話でした。
 日本では警察庁さんが防犯環境設計とかGISを使って地域における防犯・安全対策を展開しようとされています。
 このような具体的な活動をとおして、異なる立場にあって違う見方をする方々も、児童・生徒を守ることを自分の課題として取り組んで、地域全体のセキュリティを高めて行くことが重要であるということが、今回のパネルディスカッションのまとめと申し上げられるのではないでしょうか。
 パネリストの方々からもっと話をお伺いしたかったのですが、残念ながら時間が来てしまいました。
これでパネルディスカッションを終わらせて頂きます。
有り難うございました。

(2002年4月10日号)


戻 る