対談・学校と地域のセキュリティ対策 3

学校と地域の融合
子供を見守る地域の高齢者

出席者
三井住友海上グループ・インターリスク総研主席研究員    小林 誠 氏


マヌ都市建築研究所主席研究員、中央大学講師 
山本俊哉 氏

児童と高齢者の結びつき

――池田小学校の新校舎がどう評価されるかはこれからのことですね。
山本 その経験、教訓を今後どう活かしていくか、静かに見守っていきたいですね。池田小学校の設計では、安全安心に重点を置きながらも、学校の教育機能、地域、防災それに遺族など関係者の要望を、場所、コストという与件のもとでまとめられています、相反し、矛盾するものを両立させるのが設計者の役割です。事件が風化してほしくないために慰霊碑も建立されます。

――前回に「塀のない学校」が話題になりましたが、池田の事件で、学校が地域に対して閉鎖的になることはないでしょうか。
山本 そういう懸念もありますが、逆に地域とともに安全安心の学校をつくるという動きも活発になっています。自治体の取り組みとしては最近、横浜市で、市長や学校、地域の関係者とのパネルディスカッションが実施されました。子供達をどう守るか、高齢者の果たす役割は何かなど、いろいろと討議され、予算に裏打ちされたプロジェクト「地域学校防犯活動支援モデル事業」との連携が強調されました。中田市長の話によると、当市の世論調査では、この18年間、高齢者福祉が行政への要望のトップでした。しかし、昨年初めて防犯がトップになり、地域と学校の安全をどう確保するかが重点政策課題として予算が組まれています。

――子供と高齢者とは接点がありますね。昔は高齢者が地域の子供の世話をしたり、見守っていく風潮がありましたね。
山本 今でも子供の元気な声が聞こえる地域は、高齢者が地域の中でしっかりと役割を果たし元気です。杉並区立第十小学校は塀がなくて、校庭に隣接して公園があります。地域のお年寄りが公園に座って校庭の児童を見て元気になります。一方、子供たちもお年寄りから見守られていることになります。この計画は住民参加でつくられました。

――一番自然な見守り方ですね。
山本 少子高齢の社会になって、子供と高齢者という弱者に社会がどう向き合っていくかが問われています。弱い者が協力すれば強さに変わります。お年寄りがストリートウオッチャーの力を発揮します。都市計画はこれまでそういうことはあまり考えてきませんでした。例えば、ニュータウンの計画はファミリー世帯を想定し、一人暮らしの高齢者や鍵っ子のことはあまり考えずに行われてきました。

防災に遅れる防犯

――昔の高層団地では、設計段階から、人が死ぬという想定が欠けていて、たとえば棺桶を運ぶことができる大きさのエレベータがつけられていない、という例も多いそうですね。
小林 そのへんになると、建築設計だけの問題でなく、地域の取り組みがかかわってきます。今まで警察に近い人達がやっていて、広い取り組みになっていなかった。皆不安でどこで相談したらよいのか、具体的なことになると、防犯は防災に比べるとまだ貧弱ですね。単に設備の問題ではなく、地域戦略がありません。防災リーダーが地域にはいますが、防犯もそういう体制づくりが必要でしょう。
山本 イギリスのネイバーフッドという組織では、防犯からスタートして防災、交通安全、青少年の健全育成の活動まで広がっています。日本でも警察が「生活安全」という言葉を使っていますし、神戸市でも、防災、福祉、防犯を一緒にした条例を制定していますね。
小林 本来そうなってくるはずです。日本では防災が先ですから、そこから行かなくてはいけないのですが、消防、警察が入るとどうもうまくいかない面があります。

経験知とIT技術

山本 お役所は長く縦割りの世界に馴染んできましたからね。リスクマネージメントという考え方とは別に、昔からある町内会などの地縁型コミュニティは、基本的には自分達の村社会を守るためにつくられたもので、そのルーツは古代までさかのぼります。いかに他者を排除し、内部の問題を封印して解決するという歴史がありました。グローバルな時代になって、人もモノも情報も行き来が激しくなっていますが、その負の側面が犯罪です。仕組みの再構築は地域社会にも求められていると思います。
学者先生は防犯についていろいろ言います地域で具体的に実践しようとしても、難しいということもあって、最近話題のNHKの番組「難問解決ご近所の底力」を某大学のある研究室が研究テーマに取り上げているそうです。「ご近所」の経験知、社会技術に着目しているようですが、それと最新の技術をいかにマッチングさせるか、IT技術や映像機器などをどう組み込み、使いこなすかが課題ですね。
小林 自分達のツールとしてどれくらい使いこなせるかです。自分達の経験知とマッチングしていけばよいですね。今はまだ技術が浮いています。今までに痛い目にあった教訓、社会技術を現在に活かしていくことですが、防火の分野で言えば京都の町組制度で、京都の大火の後で防火の取り組みができました。これはソフトで、東京では耐火建築にしてしまうハードが重点でした。どっちがよいというのではなくて、両方必要なわけです。
たとえば、池田小学校の場合もこれから真価が問われるわけで、その運用がうまく行われるかを見て行かなければなりません。監視カメラをつけたから安心というではなくて、その管理運用です。学校の安全を維持するマネージメントシステムとして、「PDCA」つまりプラン、ドゥ、チェック、アクトのサイクルを提言しています。こういった事件がもう起きないとは言えません。その時の被害を最小限にするために必要なシステムです。  (つづく)


(2004年7月10日号より)

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