対談・学校と地域のセキュリティ対策 2

弱小者を守る学校防犯施設の特性

出席者
三井住友海上グループ・インターリスク総研主席研究員    小林 誠 氏


マヌ都市建築研究所主席研究員、中央大学講師 
山本俊哉 氏

アクセス、動線の一元化

――外部からのアクセスはどのように改善されたのでしょうか。
山本 敷地内に小学校、中学、高校があり、地形上高低差があって、今までは小学校の正門と中学・高校の正門と二つありましたが、今は、小学校の旧正門を閉鎖し、中・高の正門を小学校も使うことにして、アクセスが1カ所に絞られました。小学校の旧正門は特別行事や緊急時に使用することとし、赤外線センサーが設置されています。また犯人宅間守が侵入した通用門は完全に封鎖されています。

――小、中、高の生徒、教師から給食の業者まで、すべて一つの門から出入りするわけですね。
山本 動線を一元化し、この正門には昼間は警備員が常駐、夜間は画像録画装置付きのオートロックで出入管理をしています。給食業者などはその正門を入った後にまた、専用の通用門でチェックされます。小学校の児童は運動場を通らずに、北側の人工地盤から新校舎に入ることでアクセスは一新されました。

――普通の学校では考えられないような厳重さですが、他の学校ではそんな例があるのですか。
山本 外来者に名札をつけるといった簡単なソフトはやろうと思えばできますが、こういう物理的な対応はすぐにできるものではありません。ただ、私学では学校経営の方針や地域とのつながりは公立とは違う点があって、防犯設計、安全管理については、公立とは差別化して強化する動きがあります。その一つの例が帝塚山小、中学校、幼稚園です。

――あの事件のあと教職員の防犯マニュアルの変更はあったのでしょうか。たとえば、見知らぬ者がいればすぐ声をかけるとか…
山本 文部科学省において研究協力者会議を設置して、ソフト面の対応をまとめています。また付属池田小学校の経験、教訓を活かすため、大阪教育大学が専門家会議を設置し、昨年12月に成果を公表しています。また各都道府県市町村でもマニュアルを作っていて、横浜市は内容を発表しました。

閉鎖と開放の両面性

小林 施設に入る所は原子力施設みたいに1カ所で管理し、中へ入ると今度はオープンにする、そういう両方混在した、閉鎖性とオープン性を合わせた施設というのは他にありますか。学校に限らず、施設のセキュリティとしては新しい考え方ですか。
山本 どの施設においても、どの部分を閉鎖的に、どの部分を開放的にするかは、いつも論点になります。店舗においてもお客さんを迎えるわけですから開放せざるを得ません。金融機関でもそうで、ウエルカムですが、侵入する側からすれば、事務室にいかにして入るかを狙っていて、このせめぎあいをどうするかが問われます。
そういう意味では学校も似ているのですが、学校は学校として特性があり、しかも特に守らなければならないのは幼児、低学年という自分達では身を守ることが難しい子供達で、弱小者を対象としたセキュリティの構築です。一般に防犯対策は、侵入窃盗対策が多く、文科省でも侵入窃盗も対策の範疇に入れているのですが、何と言っても池田小学校やその後にも起きた事件によって、平日昼間の時間帯に、学校に侵入して凶行を働く者からどうやって子供たちを守るかが課題になっているわけです。そういう点でも他の施設とは違う面があります。

衝撃が大きかった宇治小学校の事件

小林 完全に施設外からの侵入者向けですね。
山本 そうです。昨年12月に京都府宇治市の市立宇治小学校で似た事件があり、二人の児童が傷を負いました。あれは非常にショックで、付属池田小学校より宇治小学校の方が衝撃が強かったと言えます。教室で再び起きた凶行事件ですし、一歩間違えば殺されたかもしれないのです。池田小学校の場合は、宅間という特異な人間と付属小学校という特殊な学校での事件と受け止められがちでしたが、公立の小学校で、しかも玄関から入って来たのです。
昨年、警察庁の発表で、小学校で児童に危害を与える恐れがあった事案は22件あり、その中で凶器を保持していたのが9件ありました。イラク、北朝鮮、アルカイダといった社会不安も重なって、自分の子供時代と大きく変わってしまったという不安に駆られています。今まで開放派といわれているような人までが、セキュリティの面で「閉鎖やむなし」というような傾向になりつつあります。
地方に行くと学校の門扉の閉鎖問題に戸惑いが見られます。たとえば、青森には塀が全くない学校が多く、新潟に行くと積雪のため、塀を低くしている学校が少なくありません。

小林 一時、塀のない学校と言うのが流行ったように思います。
山本 建築界では杉並区の小学校などで積極的に「地域に開かれた学校」を具現化する試みが行われてきました。地方では今でも池田小学校のような事件は、大都会での事件だという受け止め方があります。しかし、一方で高速道路や新幹線で窃盗団が移動する時代ですから、大都会だけの問題ではないという不安も高まっているようですね。
(つづく)


(2004年6月25日号より)

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