対談・学校と地域のセキュリティ対策 1

池田小学校新校舎、オープン形式で厳重な防犯

出席者
三井住友海上グループ・インターリスク総研主席研究員    小林 誠 氏


マヌ都市建築研究所主席研究員、中央大学講師 
山本俊哉 氏

遺族、保護者など相反する要望を充分に摂取

――今回は「学校と地域のセキュリティ対策」というテーマで、まず大変な衝撃を与えた児童殺傷事件が起きた池田市の大阪教育大付属池田小学校のことから始めたいと思います。
山本 あれから3年経ちまして、池田小学校では新しい校舎が完成し、事件発生の6月8日には慰霊祭が行われます。新校舎はこの4月から使用されていまして、私は現地を取材し、今日出たばかりの建築関係の雑誌にレポートを書きました。
ああいう悲惨な事件のあった学校ですから、校舎建設の理由や経緯が普通の学校とは異なるのですが、一口で言えば、新校舎の外見は非常に見通しの利いた建物で、また同時に、これほどの厳重な構えを持っている小学校は日本では他にないと思います。
小林 新校舎をテレビで見たのですが、外から丸見えみたいな学校ですね。
山本 そうです。今回の新校舎については、3種類の人達のことを考えて設計されました。一つは亡くなった生徒の遺族で、これは一般の学校建築にはない設計条件ですね。次が心身に傷を持った生徒達とその保護者で、事件の影響からまだ学校に戻れない生徒もいると聞きました。そして一般の生徒、教職員、関係者です。
設計に際しては前2者の方々の意見、意向を踏まえて作られたのですが、一つは、あの事件、教訓を風化してほしくないというのが遺族の強い要望で、事件の現場、外観も残して欲しいということでして、一方、心身ともに傷を負った生徒の保護者からはフラッシュバックを起こさないようにして欲しい、旧校舎のイメージは一新して欲しい、子供達が事件の場所を見ないで学校生活が送れるように設計してほしいという要望も強いということでした。
小林 それは相反する要望ですね。
山本 そうなんです。こういう相反する要望をひとつの形にするのが設計の役割ですが、いかにすり合わせるかが最大のポイントでした。特殊なケースとはいえ、3者に共通していることは厳重な出入管理、防犯に配慮した建築設計、防犯設備の多用により安全と安心を確保することでした。
セキュリティ設備の概略ですが、防犯カメラは全部で10台、緊急通報装置は314箇所、警報ブザーが105箇所設置されています。それから高さ3メートルのネットフェンスが学校の敷地周囲に設置されていますが、それができない場所には、これまで原発や空港で使用されていた誤作動が少ないセンサーを設置しています。設備関係で見ますと、これまでの小学校で考えられないような厳重なものです。
通常出入りする校門は1箇所に限定をして、校舎に入るまでに少なくとも二重のチェックがあります。低学年の子供達は常に大人の目の行き届くところから自分の教室に出入りできるように動線を確保し、いざ問題が起きた時には複数の避難経路が確保されています。学校では非常に珍しいのですが、バルコニーが普通教室の周囲にめぐらされています。また、普通教室はオープンスクール形式を採用し、廊下がワークスペースになっています。
オープンスクール形式とは「地域に開かれた学校ではなく教室のオープン化を言います。このオープンスクール形式の学校は千葉市の打瀬小学校、福岡市の博多小学校に事例があって、池田小学校の校舎改築委員会や教職員はこの両校を見学して参考にしました。ただ、外部に対して開放的なイメージが強いせいか、保護者や関係者からは異論があったそうです。
しかし、防犯上、オープンスクール形式は、避難しやすいし、また他の教師が異常を察知しやすい。さらに休み時間など見守ることができます。それに加えて、教育大付属の学校として「新しい教育」●●が使命であることもあって、オープン形式が採用されました。 旧校舎は特別教室とし、新校舎に普通教室と管理諸室などを入れて心身に傷を負った子供たちに配慮しました。

小林 管理体制の面についての新しい試みはいかがですか。
山本 建物とからんでいるようなところがあるのですが、普通の学校ですと校長室や職員室などの管理諸室から見通しが確保されるように校舎を配置し、防犯設備もそこで中央制御することが考えられますが、オープンスクール形式であるため、普通教室の横にある教官コーナーやカウンセリング室、玄関の脇の事務室など校内の各所に大人の目を分散配置しています。センター機能を持ちながら分散的管理がなされている感じです。それでいて管理諸室はガラス張りです。校長室から教職員室を抜けて玄関の受付まで丸見えなのです。これほどよく見えると、気持よいぐらいです。
小林 そうですか。それは徹底していますね。
山本 細かいディテールに付いては、事件の教訓を踏まえて、こういう場面ではこうするというマニュアルを付属学校として作成しています。

――新しい校舎ができて、住み心地と言いますか、学校関係者の方々は喜んでおられるのでしょうね。 山本 外見的には、「きれい」「明るい雰囲気」といった声は聞かれてくるようです。ただ、ああいう悲惨な経緯によって新しい校舎ができたわけですから、学校関係者や児童達に感想を聞きにくい面がありますし、この4月から使われ始めたばかりで、これから評価が定まっていくと思います。 (つづく)


(2004年6月10日号より)

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