労力低減とセキュリティも実現した「RFIDタグ」
児童の登下校時を完全把握であんしん*束
希望者(保護者)にはメール通信サービスも
来春には全校児童で完全導入へ
立教小学校

rikkyo1.JPG 学校内、又は登下校時に犯罪に巻き込まれるケースが多発している中、東京都豊島区の立教学院立教小学校(東京都豊島区、田中司校長、教員40数名、児童定員720名)は、富士通(東京都港区、黒川博昭社長)と共同でアクティブ型RFID(写真)を使った、児童の安全確保を目指したシステムを開発、試験運用を開始した。今後、導入件数を増やしながら来春には全校児童に拡大する方針だ。児童の安全を守る事が必要となった今日、IT技術を駆使した同システムが学校安全を大きく変える救世主≠ノなるかもしれない。そこで、導入の推進役となった、情報科主任石井輝義教諭に、経緯や今後の抱負を聞いた。

――全国でも珍しい画期的なシステムを導入しましたが、経緯は。
石井 本校は立教学院という学校法人で、小、中、高、大学で構成されています。また、社会生活を送る上でコンピュータの操作などは必要不可欠で、今後ますます重要になるため早い時期から情報に慣れ親しむ機会を与える目的で、2001年4月に「情報科」(1学期毎に2学年ずつ受講)の展開が開始されました。私が「情報学」に詳しく、コンピュータやそのネットワークに関係を持っていたことから、情報科の専任教員となりました。
2003年9月からは教員に1台ずつパソコンが(校務用として)貸与されました。ペーパーレス化と共にセキュリティ対策などが重要であることはいうまでもなく、その対策なども、順次、行ってきました。また、同時に「グループウエア技術」など素晴らしいIT技術を持つ富士通さんと協業作業を推進してきています。
こうした中、今年の初めに富士通さんから別件でRFIDタグ技術の提案がありました。

――導入するきっかけはどんな構想ですか。
石井 先生の(雑用など)労力軽減に役立つほか、児童の安全対策も同時に実現できるのではないかと思いました。
本校には「情報処理室」という情報系の独自組織があり、ここではデジタル化などの設計や普及推進などを行っていますが、例えば児童の出欠(点呼)をとる手間を何とか削減できないかと考えていました。
朝、担任が教室で子供達の登校人数を把握する事は単純作業かつ重要事項だけに、デジタル化すれば時間・労力の削減ができ、その空いた時間で児童とのコミュニケーションが図れます。それと、教職員も朝礼を行いますが、その間、児童達は教室で待機しており、この間大体10分間、1年生から6年生までのグループで、校庭で行う縦割り朝礼の場合には、その時間はさらに拡がってしまいます。先生と児童は、まだ確実に顔を見合わせておらず、結局、先生が教室に来てはじめて、どの子が遅刻または休みとなるかを把握する事になります。
rikkyo2.JPGこのタイムラグは非常に重要な時間ともいえます。風邪などで休校する場合はともかく、本校の児童は、電車やバスなどを使って遠くから通う子も多く、万が一、登校途中で事件・事故に遭遇した場合、一早い対応が要求されるからです。
校門通過時点で、パソコン上に全ての児童の登下校有無を把握できれば、登下校している筈の児童を早い時点で把握でき、児童の安否確認そのものとなります。そこで、RFIDタグを使ったシステムを試験導入した訳です。
また、保護者にしてみれば、何時に児童が学校を出たのかが分かれば所用時間が分かっていますから、何時に家に着くかが予想でき、家庭では色々スケジュールが組みやすくなるほか、雨降りなどでは駅まで迎えにいく事なども連絡無しでも可能となります。
一方、学校内、厳密にいうと校門をくぐった時点から校内の責任は学校にあると考えています。反対に校門を出た時点から(前提として社会治安や物理的な安全性など公共的な諸々条件が加味されるが)は児童自身と保護者の責任が前提になると考えています。そこで、登校時に何時についたか、反対に下校時は何時だったかを把握することで、一人一人の安全を確認できます。
しかも、登下校時ですから個人のプライバシーを侵すことはありません。危険なのは学校内より登下校途中の方が多いでしょうが、登下校時を全て把握するのは難しいですし、仮に出来てもプライバシーの侵害などの問題が残ります。なかにはGPSを使ったセキュリティサービスを提供する警備会社もありますが、これは加入者が同意した上で申し込んだ者がサービスの提供を受けるもので、同様な事を学校側が実施するとなると、過剰教育、つまり、プライバシーに抵触する可能性があると考えました。この問題は、今後、真剣に取り組まなければならない課題となりますので、現状での実施・導入は難しいと判断しました。
従って、現状で対処できるギリギリの線での安全対策が、今回のシステムでした。

――いつ頃に導入決定をしたのですか。
石井 学期毎に保護者全員の参加が前提の「PTA総会」を行っていますが、年度内2回目となる総会を9月18日に開催し、その席上、田中校長が児童の安全確保に対する考えや、その一環として当システム導入する趣旨などを説明しました。総会で多くの質疑応答や批判などが出た場合はこの計画は取り止めになったかも知れませんが、幸いにして殆どの保護者から同意を得られましたと認識しています。というより、『何重でも良いから、子供達の安全を守ってほしい』という意見・要望が大半であったと思っています。

――今回のシステムは全校児童を対象にスタートとしたのですか。
石井 いえ、このプロジェクト提案の核は「情報処理室」で、その室長が担任となる4年生の1クラス(40人)を対象にまず試験導入しました。
というのも、屋外で、且つ、子どもを対象にした実証試験は実施されておらず、またRFIDタグも、物流などに用いられるものとは全く異なり、新たに開発された専用の製品を投入しましたから、正確に機能するかなどを確かめる意味からあくまで実証実験という段階です。車の走行時などで何らかの電波障害などが起きないか等を確認する必要があります。これらのことに限らず、ICタグが新しい技術だけに、さまざまな課題がありますので、それらを包括的に捉え、来年4月の本格運用に向けて可能な限り解決していきたいと考えています。
また、万が一、不足の事態が起こった場合、システムを一番理解している(者が担任)関係上、対処がやりやすい上、学校内や保護者からのコンセンサスも得やすいという事で、そのクラスを対象としました。

rikkyo3.JPG――富士通との共同開発というのは。
石井 一般にソフトウエアなどにも多いのですが、開発は研究・開発者が行います。従って、導入先の現場の状況や要望などは分からず、ワンウエイでの製品開発が多いといえます。
極端な話が、インターフェースや操作方法などを現場で理解し、正確に作動するかを導入側である我々がきちんと確認する必要があります。そこで、現場の先生でも理解・運用できるシステムを共同で開発することがベターであり、そのための我々の意見を取り入れた改良などを重ねていく必要があります。

――システムはどのようなものですか。
石井 簡単にいいますと、電池で作動するRFIDタグをランドセルに付け、その児童が校門を通過した時点(登下校時)で、校門に設置したアンテナでその情報(電波)をキャッチし、パソコン上で児童の登校・下校時間を把握するものです。
ランドセルに付けるのは児童が意識することなく、行動を損なわないためです。
また、希望者だけですが、保護者にはメールで下校時間も通知します。全ての保護者に通知しないのはメールアドレスの告知を強要することは避けたいからです。

――今後のスケジュールや抱負などはいかがですか。
石井 近く、私が副担任して関わらせて頂いているクラス(6年生、40名)でも導入するほか、全校児童への導入前に、順次、幅広い学年を対象に運用範囲を広げていくつもりでいます。学年毎で登下校時の行動パターンは多少違いがあり、傾向などを掌握すればその対策も練れます。
例えば、寄り道が多い児童には保護者が下校指導して頂くということも可能になると思います。『うちの子は何故いつも帰りが遅いか』という疑問を持ってもらい、学校と家庭が協力して、その改善を促す事も可能になると思います。そして、可能な限り早い段階で全校児童を対象として導入する計画です。
また、このシステムにはメール通知機能がありますが、全校で導入した場合、メール希望者は低学年を中心に増加することが予想でき、その時点では1日に、最低1000通以上の送信が必要となると考えています。その時、登録者に一斉に間違い無く通信が可能かどうか、も課題になると思います。更に全校児童には本人に間違いないタグを取り付けることも重要です。こうした問題を含めて、今後予想されるさまざまな問題や、想定外に起こる問題を実験期間で解決していきたいと考えています。
本格稼動した時点では本校の独自システムというより、より多くの学校で導入されることを切望しています。
というのも、最初に戻りますが、元々、このシステムを導入するきっかけは、教職員の労力を軽減することで教え≠ノ専念するための補助機器であり、同時にセキュリティも向上します。さらに、本校が提案したICタグを使った新たな意味での「安全」という考え方にも議論が必要だと考えています。そのため、多くの学校で、「安全」に関する考え方の摺り合わせを行い、よりそれに適した技術を模索していきたいと考えています。それだけに、実現することが必要ですし、出来るものと確信します。
そして、より多くの学校などで採用され、児童の安全が確保されれば良いと考えます。
また、本校では、これまでも(民間警備会社委託の)警備員による受付・巡回警備、つまり24時間態勢の有人警備を行ってきました。これに加えて、今年の夏には、防犯カメラの設置を行ったほか、児童の登下校時以外に、主に教職員が出入りする門(通用門)には電子ロックを導入しました。これまで、様々な形で推進してきた安全対策にプラスして、今回のICタグを使った安全対策を位置づけています。
しかし、これで安全面は万全ということはなく、我々教職員の出入りも安全で便利に行える様、今回のシステムを活用した新たなシステムを導入なども検討しています。その事に限らず、ICタグによる技術の可能性は、学校業務の軽減と言うことに関して、大きな広がりを持っていると考えています。例えば、遠足などの行事での点呼は重要であるにもかかわらず、非常に煩雑で教員の労力の多くが割かれてしまっています。このような面での運用も、今回のシステムの応用によって可能かどうかを富士通さんに提案・要望し、既に実現可能な段階にあります。このような労力を、機械によって可能なことは極力、機械化し、児童との教育的な関わりに、教員の最大の労力を割いてもらうことが、最も重要だと考えています。


(2004年7月25日号より)

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