テロ防止および事後対応システム構築に望まれる姿@

東京大学工学系研究科化学システム工学専攻教授・理学博士       船津 公人 

funatsu080925.jpg 1995年の東京地下鉄サリン事件はわが国において化学・生物テロの身近さを強く印象付けた経験であった。その後アメリカ合衆国では2001年9月11日に航空機を利用した同時多発テロ事件が発生し、一般市民もいつどこでテロに遭遇するか分からない現実と恐怖を我々に突きつけた。
 このような背景は従来からのテロ防止のための技術開発に拍車をかけることになった。具体的にはイオンモビリティ質量計を用いた検出器、1光子イオン化飛行時間型質量分析計(TOF)を用いた検出器、バルク検出器ではパルス中性子線を用いた非開被爆発物検出器などが開発、導入されてきた。また、1990年代の後半からミリ波を用いた画像解析を利用して屋外での衣類・鞄などへ隠匿された銃刀類を発見する金属物検出装置の開発が始まっており、改良研究が進められている。このように個々の爆発物検出器の性能を向上させる技術開発は世界各国で行われ大きな成果を挙げつつある。実用的な側面から考えると、爆発物検出など極端に確率の低い事象に対する検出は誤報率を下げることが重要である。しかし各検出器の性能向上には限界があるため、一つの検出器では検出精度の向上および誤報率の低下は共に限界がある。また、利用客が多く集まる空港や鉄道駅などでは、爆発物検出のために人の流れを妨げず、しかもどこでどのように検出が行われているかを分かりづらくすることもテロ抑止につながる大切な要件である。したがって、個々の検出器の性能・特性・特徴を把握するとともに、これらの検出器をそれぞれ適切な場所で使用し、得られる情報の解析結果を統合的に活用することで迅速かつ的確に爆発物などを検出するためのシステム的手法の構築が強く求められている。
 さらに、爆発物や化学・生物種によるテロを未然に防ぐことは最も重要な課題であるが、常に想定しておくべきことは、テロが発生した直後の正確かつ即時的対処である。一次被害の軽減(被害拡大前における乗客などへの周知、直接被害を受けた乗客や職員などのための医療機関や医薬品の確保など)や二次被害の軽減(間接的に被害を受ける可能性のある警察や医療機関担当者などの初動体への適切な対処法の連絡や加害者の直後の再犯防止など)のためのシステム構築は被害の拡散防止の観点から極めて重要な課題である。そのためには、空港や駅構内などで散布された化学・生物種の迅速な把握と被害の拡大状況の把握、加害者あるいは被害者の移動状況を推定などが必要となる。
 爆発物検知にしても、化学・生物テロ事後対応にしても、検出器や画像装置などから得られる情報の合目的的で迅速な解析とその統合利用が成否を握るカギであるが、わが国の取り組みは極めて遅れていると言わざるを得ない。
 この連載では
@爆発物検知を目的とした各種検知装置からの情報分析とその統合利用のためのシステム構築、 
A化学・生物テロ発生直後の空港や駅構内での状況把握のための統合システム構築のための技術的課題と筆者らによる最近の取り組みを数回に分けて紹介して行く予定である。  

(セキュリティ産業新聞2008年9月25日号より)

戻る