「TAPA」の現状と動向

浅生成彦・TAPAアジア日本支部代表
渡邉豊・東京海洋大学教授

『TAPA』(Transported Asset Protection Association)―物流資産保護協会は、電子機器・ハイテク製品の保管・輸送中の紛失・盗難などでの損失防止を目的に、1997年、アメリカで設立された非営利団体(NPO)である。倉庫などの施設を対象にそのセキュリティレベルをチェックすることで、「ハイテク・高付加価値商品、貴重品等の保全」と「企業の資産」の保護を計る。さらなる普及が期待されるTAPAの、アジア日本支部、浅生成彦代表と、コンテナ輸送工学、物流環境工学の第一人者である東京海洋大学、渡邉豊教授が日本のサプライチェーン・セキュリティの今後について語り合った。

浅生成彦氏浅生 4年ほど前からアメリカは全世界の倉庫・輸送のセキュリティ基準であるTAPA認証を日本にも導入するよう強く要求してきました。アメリカの大手電子機器メーカーであるインテル、マイクロソフト、ヒューレットパッカード社などが、倉庫保管でのセキュリティレベルがTAPAで証明されてない物流会社(3PL等)には仕事を発注しないなどと言い出したわけです。このような状況下にあって、TAPA導入を日本の物流の国際化での緊急テーマとして、2007年にTAPA日本支部を設立し、今後の日本での広報・教育を通して広く物流業界に認知させる活動が今の段階です。
 今年4月より導入された日本版AEO(国際物流業者、通関業者も対象にした税関検査簡素化優遇政策)のフィジカルセキュリティの判定も、TAPAを導入すれば簡単です。理由としては、TAPA認証を取得した企業は、セキュリティの基準を満たしている物流業者である証明になり得るので、税関職員がわざわざメーカーの倉庫現場へ行ってセキュリティチェックをしなくても良いわけです。この件については今後、財務省(税関)、国交省などに強く要望する予定です。一方、日本でTAPA認証が急速に進まない理由としては、認知度もさることながら荷主を含めて物流業者全体に、日本での倉庫・輸送は安全だと思っていること、即ち、荷主が強くセキュリティを求めないことに起因していると考えます。一方、アメリカの荷主は、このセキュリティレベルじゃないと荷物を発注しない、保管・輸送業者にプレッシャーをかけるのですが、日本は安全だと思っているから言わないのが現状です。

危うい日本の税関事情

渡邉豊氏渡邉 日本では倉庫のそばで釣り人が釣竿を垂れている。これは日本の法律がいけないのです。コンテナ輸送をする港の岸壁は税金で作りますが、そうすると公園と同じ位置づけになる。一般市民が自由に使えることになっていて、公共埠頭は釣り人を妨げられない。公共埠頭となるとどの船会社でも出入りが自由で、その典型が清水港。ど真ん中に道路が走っていて、コンテナが走ってまさに物流道路なのですが、公共扱いですから、釣竿を持った人が原付で奥まで入っている。港の海側のコンテナを置いているところだけフェンスを張って、人は入れませんが、フェンスの真横ではへばりつくように釣りが行われています。残念ながら、日本の港に侵入するには、釣り人に扮して近づくことが一番簡単な方法です。
 日本では、税関が荷物を検査するX線検査機を持っています。税関までは一般道路を通っていかなければならない。輸送している途中に事故が起こったり、第三者が入り込んだら誰の責任なのか。港から出さなかったらその事故は起きなかっただろうということになる。海外では税関は移動式のX線検査機を持っていて、港の中に税関が陣取っています。疑わしいものがあったら、ターミナルの中で調べる。日本だけが税関まで出かけなければならない。その批判がだいぶ出たので、批判回避で大阪と博多と神戸にようやく移動式のX線検査機を税関が入れた。でも、その3年前に数十億かけてビル型のX線検査装置を各地に作ってしまっていて、その投資のつじつまが合わなくなっている。

浅生 渡邉先生の分野は、海上輸送と、港に品物が入って税関、陸揚げ、そして倉庫につながるまでの行程の管理ですが、TAPAは、輸入された商品又は製造された製品の保管・輸送のセキュリティ基準の認証。そのふたつが揃っていないとサプライチェーンセキュリティにはならない。そのセキュリティの規則を作るのが日本ではなかなか難しく(各省庁間の問題もある)、倉庫・輸送のセキュリティ基準すら日本にはない。セキュリティを確保するためのCCTVの個数・角度・モニタリング、入退出での管理(ICカード、暗証、顔などの認識)、敷地内への車両のアクセス(事前通告・人・車両ナンバー等)、このようなフィジカルセキュリティの設計など、ほとんどセキュリティシステムメーカーの裁量によっているのです。
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ギョーザ事件で見えた日本の消費者の課題

渡邉 天洋食品の毒ギョーザの問題で、中国で食中毒が発生して中国内で発生したという流れに変わりましたが、それ以前は日本で発生したのではないかという疑いを完全に否定できなかった。鍵をかけられて日本の倉庫まで行ったということは証明できたけれども、そこからおのおのバラバラに最大手スーパーなどに輸送されている。そこからは全部一般輸送、一般倉庫で、カメラも満足にない状況なので、国際的な信用証明ができない。だから日本の国内での毒物混入を否定しても、全然説得力がない。

浅生 世界の1200くらいのTAPA認証倉庫のうち、約600は東南アジア。逆に言うとそれは東南アジアの輸送・倉庫保管が危ないということですが、現在日本では20数件しかない。それだけ物流でのセキュリティが進んでいないということです。やらなくてもいいじゃないかという雰囲気がまだまだ強い。しかし、これから物流のグローバル化に伴い、様々な想定外の問題が起きる可能性は多いわけで、テロリストによる保管中の化学物質の爆発とか、注射器で飲料水に毒物などを注入するなど、その危険性は未知数。

渡邉 日本では阿吽の呼吸で、あそこはブランド力があるから大丈夫だ、などという信用が通っている。これがヨーロッパとか東南アジアになると、契約先や顧客が外国であったりして、安全を信じないです。安全を証明する証書を持って来いというのが入札に入る前段階になっている。

浅生 日本は外部カメラで侵入者のチェックなどをしていますが、海外では作業員に対してもカメラが向いている。日本でもギョーザ問題が起きてから大手食品メーカーのある工場が作業員の手荷物検査を非常に厳しくした。ほかの会社もそのくらいやってほしいけれども、あまりやりすぎると、そのコストを誰が持つのかという話になる。
A、B、Cと3段階あるTAPAのセキュリティレベルのAの認証を取ろうとしたら数千万円かかるといった時、そのコストを誰が出すのか。そこが曖昧なままになっている。
 何が貴重品かというと荷主が貴重品といえばそうなのですが、電子部品、半導体などのほかに、日本ではブランド商品とか重要書類、絵画とかも貴重品です。そしてテロにつながりやすいのは食品や医薬品。そういったものの倉庫は、時間とお金はかかるけれども、これからセキュリティレベルを高くしてもらう。でも、日本の現状では、時間とお金をかけることでお客が預けてくれるという保証がない、まさに荷主の要望がないとやらないのが現状です。そこで国交省など監督官庁などで、倉庫・輸送のセキュリティレベルのガイドラインを打ち出せば導入が進むと考える。

渡邉 期限付きの行政権限で実行するというのがレールになれば一番理想的ですよね。ただ、もうひとつの行き方もある。天洋食品の問題があってから、私は消費者団体と話すことがありました。福岡の強力な団体の方々に聞いたところ、ギョーザ事件が起こってから皆スーパーで買うときに必ずひっくり返して原産国と製造会社を見ると。しかし、たとえ中国でなくて日本の有名な冷凍食品会社だったとしても、それがスーパーに並ぶまでにはたくさんの物流業者、倉庫がからみます。中にはうちは警備はいらないよとか、監視カメラもビデオもいらないよというような会社が使われているわけです。

浅生 今は飛行機の荷物が経由地のどこでなくなったかすぐにわかる。同じように車でも、荷物を運んでいて30分遅れたときに、渋滞で遅れたのか、寄り道していたのか(TAPAではアラームを発報する、なぜなら、さぼっていることよりも、荷物の入れ替え、盗難などを想定)、そしてわが国でも実施していると思われますが、どこの道路を通り、どこを経由したのかわかるようになっている。それをセキュリティ規則に含めたものがTAPA認証なのです。そこまで要求することはお金がとてもかかりますが、物流業界のセキュリティレベル向上のため、日本の付加価値商品の集積のためには必要不可欠ですね。

渡邉 私が毒ギョーザ事件で強く思ったのは、日本の消費者は勉強が足りないと。何か事故が起こっても工場だとかメーカーだとか末端だけ追及するでしょう。実際は今は流通経路が毛細血管のように複雑になっているので、どこでも問題が起こりうるのです。それなのに消費者は全然中間を見ていない。これがもし、倉庫で在庫になっている半加工品でも、その倉庫を消費者が見ていて、何か疑われると消費者がその流通チャンネルを持っている荷主に不買運動をかけるとなれば、流通業者は一気に荷主から切られますよね。そこまで消費者の目を肥やしたいと、TAPA問題を考えるようになってから感じます。 tapa08091002.jpg

求められる世界基準(セキュリティ開国)

浅生 外国では輸送・保管の安全管理は日本よりもっと厳しいですよ。インドでは、1ヶ月間商品を倉庫に保管しているとほとんどなくなってしまう。(笑)
 TAPAは、そういう国々を対象にした規則でもあるのです。それは日本ではまだ想定できないことですけれども、これからはどんどん起きる可能性がある。また、物流のグローバル化に伴い、日本も世界のセキュリティ基準を採用しなくてはならない時期に来ている。世界のセキュリティの基準は性善説でなく、基本的に性悪説から成り立っているのです。そういうセキュリティの基準が日本に求められているのは一種のセキュリティ開国です。食品安全では、HACCP(ハセップ)という製造基準が11年前にアメリカから迫られ受け入れた経緯があります。それと同じように日本の物流セキュリティもTAPAの基準に合わせないといけない。それをどう発展させていくかがこれからの課題。そこで問題になってくるのが結局お金なのです。
 すでに倉庫・輸送会社(認証取得会社)はシステムや警備サービス会社等への支払い負担がある中で、新たなセキュリティシステムにお金をかけにくいという人たちの気持ちも理解できる。しかしながら、日本も世界のセキュリティのスタンダード化の動きに対応していかないと。

渡邉 日本のいけない癖で、社会的に伏せられない事件や事故が起こらない限り、安全セキュリティの改善をやらないですから。今回、北京オリンピックに向かって中国のみならず、アジア全体が過剰にセキュリティを強化したと思うのです。ところが、中国を見ていると重要なイベントが終わったとたん、警備を薄くしてしまう。北京オリンピックが終わったので、アジア全体、もしくは欧米も含めて、セキュリティレベルが1回がくんと下がるでしょう。そうするとテロが起こるかは別にしても、何か安全保障上の問題が起きてくるでしょう。テロリストはすごく頭がいいので、間隙をついてきますから。日本もそれに巻き込まれないとは限らない。
 港湾の出入りだけでチェックしようとするから、そういうことになってしまう。内陸にある倉庫がTAPA認証のものであれば、出入りのチェックを軽減できて、経済的に逆に安くなるし、それでいて安全性も高くなるのです。セキュリティの連鎖というのはなかなか数字化できないのですが、そこを高めていくことが、いまや世界基準として求められているのです。

TAPA公認審査員養成・内部監査員取得トレーニング
2008年10月14日(火)〜10月15日(水)・ホテルグランドヒル市谷・参加費19万5300円 問い合わせ・申し込み先 社団法人日本工業技術振興協会 TAPAアジア日本支部 рO3・3597・7888
メール:narihiko-asou@tbt.t-com.ne.jp  

(セキュリティ産業新聞2008年9月10日号より)

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