風の軌跡(95)

防人の歌

立春、やっと2月。裏日本では大雪の予報が出ている。夕方、猫を連れて散歩に出ると、凍り付くような寒さが足元から上って来た。もう少しの辛抱、春は近い。
1月26日開催のセキュリティフォーラム第6回「求められる港湾施設のセキュリティ」のセミナーが極めて好評のうちに終わった。終了後の受講者アンケートにも「まさにタイムリーで内容の濃いセミナー」という感想が多数寄せられた。
改めて国土交通省港湾局を始め、講師の方々、ご協力いただいた企業の方々に深くお礼申し上げます。

9・11テロ以降、空港のセキュリティのみに気を取られていたが、今回、国や世界経済の死活を握るのは物流のほとんどを担う海路、海の安全と港湾施設のセキュリティの重要性を知って、目からうろこが落ちる思いであった。島国日本の港、港湾施設のセキュリティレベルは、外国と比べてもかなり低いという。その理由は、多くの国で港湾セキュリティは倉庫などから盗まれる物資の盗難対策がきっかけになった、治安の良い日本は盗難が少なく、その必要性がなかったそうである。
「泥棒もいない、誰でも行き交う人々みんないい人ばかり、だから全く無防備。幸せだったんだなあ。セキュリティ面から言えば、凶悪犯罪に犯されない希有なバージン列島、無垢の国」。しかし今や事情が急変している。海に面して冷却水を引き入れるためにたくさんの原子力発電所がある。「テロは必ず起きる」とかって聞いた識者の言葉が頭から消えない。

菜の花をいただいて素焼きの白い器に飾った。その花器は両手にすっぽり入るくらいのまん丸の鉢で高校生の一人娘を飛び降り自殺でなくした人からの香典返しである。包を開いて始めて手にした時、掌中の珠をなくした母親の悲しみを痛いほど感じた。この世に生を受けて何の装いも楽しみも知らずに素焼きのままで壊れ散った娘よ、そんな声が聞こえそうだった。
自衛隊のイラク派遣が始まり、隊員を乗せた飛行機を見送る家族の姿がテレビで放映されている。イラク再建が目的であるから、奈良時代、東国より九州の守りのために派遣された防人とは事情が異なるが、ついつい万葉集の一句が頭をよぎる。
「防人に行くは誰が夫(たがせ)とたずねしのうらやましきや もの思いもせず」(防人に行くのは誰のご主人?と尋ねる人が羨ましい。心配しなくていいのだから)残される妻の心情は千数百年立っても変わらないだろう。つかの間の生、今、生きていればこそ喧嘩も仲直りもできるのだが。

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