風の軌跡(92)

クリスマスソング

クリスマスソングが流れている。「ジスイズクリスマス」ジョンレノンの歌を始めてラジオで聞いた時、その日の内にレコードを買いに走った。それはつらい心を慰め、新しい日々を夢見る勇気をあたえてくれ、繰り返し聞いた。
それからしばらくして『君はきっと来なーい、一人ぼっちのクリマス』と歌っているのに耳が止まった。『随分前に流行った歌だよ』と連れが教えてくれた。
歳末は1年の締めくくりと休暇前の業務前倒しで慌ただしく過ぎて行くが、大好きなクリスマスソングを聞くと、不思議に目の前の仕事の手が止まる。しばし思いが宙をさ迷いはじめる。
今年の反省から始まり、人間の幸不幸、人間の罪や「神と、神の名のもとに人間が行う残虐な行為」、同じく自分は善人という人間とその行為との乖離等等、考えても仕方のないことを考えはじめると、迷路に迷い込んで、時間だけが過ぎて行く。クリスマスソングは人の心に情緒的な人間本来の柔らかい感情を呼び戻す。しかし、幸せ感に浸れるのは子どもか恵まれた人々で、ビジネス社会でも戦場でも、生き残るために瀬戸際で戦っている人々は、改めて自分の環境の辛さや運命を振り返りやりきれない切なさをかみ締める時でもあろう。時が早く過ぎ行くのを祈りながら。

「一番幸せな時は家にいてぼんやりダラリ、一番不幸な時はいろんな決定を自分がしなければならない時、気の進まない仕事関係の付き合い」
ついつい本心をいってしまう。「仕事を楽しんでいるように見えるけれどね」不思議そうに側の人が言う。「気の進まない時には微笑みを絶やさず、楽しそうに演じなければやってられないでしょ」

かって大きな出版社で、編集局長と副社長のトップ争いが噂された時があった。たまたま両首脳の出るパーテイに出た。
副社長は地味な人で部屋の真ん中で部下に囲まれ、客人の挨拶を受けていたが、編集局長は部下一人連れて壁の花の私達ひとりひとりに声をかけてまわった。誰もが緊張して挨拶したが、帰り道、義理で出席した私達も何か高揚した満足感に満たされていた。程なく編集局長は社長になった。人の上に立つ人の気配りは本来備わった器の大きさだろう、すごいと思った。
今年も残すところ1週間、早く幹部社員を育て、安心して新聞と会社を任せ、もぐら生活に戻れる日まで、もう少しの辛抱。今年もいろいろ有難う御座いました。

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