風の軌跡(205)

祭りを潰したゲリラ豪雨

「神保町はぜんぜん雨が降ってない!世田谷は土砂降りでしたよ」
昼下がり、会社を訪れた人が大きな声で叫んだ。
「ゲリラ豪雨だ。この頃は局地的に狭い範囲で襲ってくるようね」
 今や9月になっても雨は優しい『シトシトピッチャン』ではなくザーザーと消防ポンプなみの集中放水状況。
 昔は靴が濡れると気持ちが悪く水溜りを避けて歩いたものだが、今は水の流れに足をすくわれないように、排水溝に落ちないように、などと台風と同じような神経の使い方だ。
 米国ではハリケーン上陸に備え、百数十万の人が緊急避難したという。年毎に荒々しさを増してくる地球規模の天災に対しては、どの国もお手上げ状態のように見える。

   8月最後の週末は、近くの商店街でこの夏最後の祭りが開催された。1、2週間前から、夏祭りを知らせる看板や提灯が連なって、夜にはライトアップ。いやがうえにも祭りのムードをかき立てる。
 周りの店も、この日のために、とうもろこしや焼きそばの出店を用意し、綿菓子やたこ焼きの屋台も並んだ。1年に1回訪れてくるバンドのために、舞台が組み立てられて、その前には観客用の椅子がぎっしりと並べられている。ビールを飲みながらバンドの演奏を楽しむ近隣の人々で毎年あふれかえる。
 夕暮れになり、バンドマンたちが楽器の音あわせを始めた。トランペットやドラム、ギター、その音に引き寄せられるように人々が集まり始めた。屋台からも香ばしい食べ物のにおいが上がる。やっと音楽が始まった。数曲演奏されただろうか。
 これから宴は本番という時、突然、空のほとんど真上から、大砲のような大きな雷音が響き渡った。2度、3度。
 空を見上げて、あれよあれよ、と思うまもなく、視界いっぱいにシャワーのような雨が降り始めた。雨を避ける人々が右往左往して走り回る。
 あわてて食べ物に覆いをかける屋台のおじさん。火を使っているので、覆うにも手間取っている。水が容赦なくかかっていく。
「気の毒に」
 この日のために仕入れた食材の殆どが売り物にならなくなったのでは? ゲリラ雨が1年に1度の祭りをめちゃくちゃに潰してしまった。

 真夜中になって雨は止んだ。びしょぬれの屋台の傍で男の人が無言のまま、タバコを吸っていた。祭りを狙ったようなゲリラ雨だった。
 三林和美

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