風の軌跡(204)

レスリングと猫のバトル

 自動認識総合展が近づいてきた。RFID、ICカード、トレーサビリティ、バイオメトリクス。
 「セキュリティと関連があるものは?」
 新しい社員に聞かれると、「全部」と答えたくなる。
「認識技術はセキュリティの基本技術、いわゆる本物と偽りを見分ける、素性を明らかにする」などなど言葉をつなぎながら、「真偽を見分ける機器・システム」とアバウトにくくってみるが、使い方は多様だ。セキュリティより利便性やマネージメント用途がメインで、どうしてもセキュリティは後回し。

 お盆休み後半から急に涼しくなった。嘘のような涼しさで朝夕はクーラーや扇風機さえ止めてしまう。
 「まだ8月、このまま涼しくなるなんて、考えられないよね」
体温近くまであがったほんの数週間前までの暑さを、簡単には忘れられない。

 タッタッタッタッー、カスタネットのような足音が朝早くから響く。5月生まれのまだ3ヶ月の仔猫が狂ったように床をころげまわり、タンスから天袋、クーラーの上まで飛び移る。20センチほどの全身の両手両足を広げて、椅子の上から大きな猫の背中にジャンプ、首っ玉にかじり付いて猫キック。振り落とされると大きな尻尾に飛びつきながら追っかける。
「何がそんなに楽しいのかね」
 疲れて悲鳴を上げるのは7歳のデブ猫。レスリングのような押さえ込みが始まると、「頑張れ、負けるな」弱腰の大きい猫を応援するのだが、仔猫が『ミー』と鳴くだけですぐ押さえ込みを緩める。
 自由になるやいなや、また仔猫の挑戦が始まる。タッタッタッタッー、やくざのように体を斜に構え、全身の毛と尻尾を思いっきり膨らませて相手を脅すように飛び掛っていく。相手の4分の1程の体なのに。
 何かに似ている。昔映画で見た特攻隊の攻撃風景。小さな存在ほど無鉄砲、といえば、お叱りを受けるかもしれないが。

   夏休みには毎年恒例だった鎮魂と懺悔の行事が北京オリンピックのために、影を潜めてしまった。広島、長崎の原爆記念日から終戦記念日の首相の靖国神社参拝の是非まで、昨年までの熱い論争が嘘のようだ。
 ジーンジーン、シャワーのようにセミの声が降ってくる。オリンピックのレスリング、猫のバトルの声援で、セミに負けず騒々しく、平和な夏は過ぎようとしている。 三林和美

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