風の軌跡(203)

浴衣を愉しむ外国人

 一瞬、外に出るのをためらうような豪雨がベランダを叩きつけている。降ってはやみ、程なくまた降り始める。
 下の道路を救急車が叫ぶようなサイレンの音とともに駆け抜けていった。雨が日光を遮り、薄暗い尋常ではない雰囲気だった。
 サイレンの意味を知ったのは夕方のテレビだった。豪雨のために、下水道工事の作業員が5人も流され、神田川で一人の亡骸が見つかった、と聞いた。集中豪雨で、あまりに短時間に急激に水かさが増して逃げ遅れたと言う。
 同じような事故は、つい先日、川遊びをしていた子どもたちが流され行方不明、と報じられたばかり。今回は、下水道関連の専門業者の事故で、よほど、増水の早さが異常だったのだろう。過去の経験から培われた安全の基準が、近年の災害では通じなくなって来ているのだろうか。  

 神田川はしばしば側を通るなじみの河川。高速道路の下のコンクリートで固められた川面は、神田川の歌などで想像するロマンチックな雰囲気は全くなく、よどんだ水をためて悲しいくらいに静まり返っていた。
 都会に住んでいると、田舎と違って自然災害からは守られている、と暗黙の中で認識していたが、これからはそうは行かない。神田川だって、静かな顔をかなぐり捨てて、氾濫して荒れ狂う様相を見せる事だって無いわけではない。

   駅の階段を上りかけると浴衣姿の若い女性が3人降りてきた。履きなれない下駄で、歩き方も何かおぼつかない。それでも可憐な風情で楽しそう。見ていて思わずこちらも楽しくなる。すれ違うときに彼女たちが交わしている会話が耳に入ってきた。日本語ではない。どこの国だろう。ベトナムかカンボジアか、インドネシアか、そんなことを想像しながら振り返ると、蝶々のような帯をつけた後ろ姿は全く日本女性と同じ。むしろ素朴で、少し前の日本女性の風情だった。街中で和服を見かけることが少なくなったが、浴衣は外国人でも気軽に着れて楽しめる服装なのだろう。

   世界一の早さで高齢社会に移行していく日本、少子化が進み、新生児の30人に一人が、国際結婚の混血児だという。介護分野でも人材の不足から、外国人の受け入れが始まり、スリランカからの留学生が到着した。日本の社会が彼らのために何ができるか、日本との出会いを彼らがラッキーだった、と思えるような、温かい処遇を心から願っている。
 三林和美

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