風の軌跡(191)

春節、餃子食べつつ春よ来い

 粉雪のぱらつく中、近くの中華料理の店に駆け込んだ。餃子が店の看板で昼食時はいつも満席だが、今日は席が空いてる。農薬入り冷凍餃子事件の影響か? 深くは詮索しないで、しそ入り餃子を注文する。
 店の可憐な中国女性は、いつもはにかんだ笑顔で何か話しかけてくる。
「明日、中国のお正月です」「あ、春節でしょ。お祝いするの?」「こちらに来て今はしない。夜、家や友達に電話する」「楽しいね、ここでもお祝いすればいいのに。爆竹を鳴らすの?」「いや、中国でも田舎の方だけ」ニコニコ嬉しそう。
 生まれた国を離れて、外国で店を持ち、商売を続けていくのは私たちには想像がつかない不安や苦労もあるに違いない。そんな時、国の話をすることで、癒される部分は多いのだろう。中国のニュースで苦虫を噛み潰す表情になっても、健気に働く彼女たちを見ると、つい味方をしたくなる。

   日曜日、テレビのチャンネルを動かしていると、どこか見慣れた風景が飛び込んできた。別大マラソン、九州の別府と大分間を別府湾に沿って往復する。マラソンに興味がある訳ではなく、故郷の山や海が懐かしくて延々と見続けた。いよいよ終盤になって選手が市内にもどってくると、子供の頃の記憶につながる城や街角の光景がバックを流れていく。中心街でトップを独走していたケニヤの選手を初参加の若い旭化成の選手が追い抜いていった。いつの間にか熱く応援して一緒に街中を走っている気分、ゴールでテープを切った時には私もガッツポーズ。
 マイクを向けられた選手はクールとさえみえる冷静さで「ただ無心に走りました」と繰り返した。そうか、やはり大分の選手、私も子供の頃、「無心に」と何度父から言われたことだろう。耳にたこができるほど聞いた。思いもかけず仏教の言葉が若い選手の口から出て、すっかり嬉しくなった。

   NHKで鬼平こと長谷川平蔵の番組が放送された。飢饉で農村が疲弊し、食を求め無宿人たちが大勢江戸に流れ込み、治安悪化を招いた。その対策として平蔵は無宿人たちに大工や紙漉きなど技術を教え就職先を紹介した。その結果、治安回復が実現した、という。
 日本に出稼ぎに来る外国人労働者も、正しい受入策が整えられれば、悪に染まることもなく、高齢・少子化の進む日本にとっては救世主になるのかも知れない。春節、餃子食べて春を待とう。
 三林和美

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