風の軌跡(187)

ドキドキ出会いの予感

「今年中に、私の将来に大きな影響を与えてくれる人に出会える」
 細木数子の占い本に書いてあった、と言うのを聞いたのは、11月の初めだった。
 「それは楽しいね」しかし、よく聞くと、大きな影響といっても、仕事上なのか、プライベートなのか、その人が男か、女か、良い影響か悪い影響か、それも分からないのだが、ご本人が嬉しそうなので、見ているこちらも楽しくなる。
仕事柄、ほとんど毎日誰かに会い、名刺交換をする。
「毎日、ドキドキ楽しくて仕方が無いのじゃない?」
 ムッとした返事が返ってきた。
「日中、忙しくてそんな余裕はありません」
 仕事が一段落してほっと肩の荷を下ろした夜など、ハードな仕事にため息混じり、一種の寂寥感と共に思い出すのだろう。「もうすぐ出会える」

   私は占い好きではないが、それでも、人生何十年の間には何度か、占いの本をひっそりめくったり、自分の手相をじっと眺めた経験はある。それはいつでも決して幸せな時ではなかった。迷いと悩みの中で藁をも掴むような思いで手を眺め、祈るように占いを見た。
 不安に押しつぶされそうな時には、ほんの数行の甘い言葉だってすがりつきたくなる。
 細木数子のことをそれまでほとんど知らなかったが、気をつけてみると彼女は、テレビで視聴率を稼げるスーパー占い師、大先生だ。その番組は一度見ると、数回は続けて見たくなる。他人の実人生の悩み事や将来の予測を、ご本人の生の表情と共に見ていられるのだから、下手なお笑いやドラマより面白い。  

 「自分に大きな影響を与えてくれた人は、その時は気づかなくて、何年も過ぎてはじめてその人のお蔭と気づくこともあるから」
 年末まで3週間、期待が外れてがっかりしないように、細木の真似をしてそれとなく相手に暗示をかけた。

   求人の面接を行いつつ、待たされるのが不得手の人が多くなった印象を受ける。ほんの10分程度でも、露骨に不快感を表す人、不快感を出さないようにコチコチになる人、反面、明るい柔らかい表情を崩さない人がいる。対面の前に既にその人の性格を見てしまう。わが社の社員として相手先で待たされた時、一番楽しい思い出を心に引っ張り出して楽しそうに待っていて欲しい。無理かな。自分の表情は他人しか見えない、ということを改めて自戒とした。

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