風の軌跡(112)

無題

その時、ちょうど雑誌や新聞を積み重ね、自殺者の記事を見ていた。年間3万人も超える日本の自殺者、すごい。原因は病苦や愛情問題、男性に多いリストラや経済的な事情での自殺は心から同情するが、やりきれないのはインターネットの自殺サイトで誘いあっての集団自殺。33歳の既婚女性がリーダー役だと記事では書いてあったが、一緒に死んだ若者の多くは20歳そこそこ。戦争や病気で死の瀬戸際まで行った経験のある人々にとっては「許せない」と怒りを覚える事件に違いない。

中世の西洋の童話で、ペストが流行し、鼠の害に苦しんでいた街を、笛の上手な少年が笛の音で町中の鼠をおびき出し、川の中に誘い込んで殺し街を救った、と言う話があった。鼠のように流行病を感染させるわけでないが、自殺願望という心の病を持った迷いの多い若者たちに流行しないとは限らない。頭の狂った年上の異性にリードされるままに、「おててつないで」死んでいく鼠レベルの若者、鼠かメダカに生まれるべきを間違って人間に生まれたというべきかもしれない。


そんなことを読んでいると椅子が揺らいだ。頭の上の蛍光燈を見上げると、傘が大きくゆれている。「地震?」「うそ!」見回すと隣の部屋も、また別の部屋の傘もブランコのようにゆれていた。「とうとう来たか、東京直下型地震」

慌ててテレビをつけ、玄関のドアを少し開ける。その間にまた、大きな揺れが始まった。程なくテレビのテロップが流れ、震源地は新潟、続いて新潟の放送局の映像が流れる。次々と震源地の周囲の町々の地震波の大きさが読み上げられていく。被災地の苦境を想像しながらテレビに釘付けになり、気がつくと1時間過ぎていた。

23号巨大台風が去り一息つく間もなく新潟での大地震発生、全く日本は防犯だけでなく防災でも、地方分散化が進み北から南まで危なくなっているのではないか、等と思えてくる。

次の日、地震の死亡者の中に産まれて2ヶ月の子供がいると放送された。涙を流して惜しみたい命もあれば、吐き気を感じる死者もいる。


やっと雨が上がって猫を連れて公園にいくと、ベンチの上で迎えたのは野良の三毛猫お姉さん。すぐ子供を生むので、野良猫防止グループで避妊手術を終えたばかりだった。我が猫は彼女を見ると2メートル前まで走り寄ってそのままフリーズ。彼女は「あら坊や」というように身体を椅子の上で反転させて流し目を送った。いつもは私に気を使う両猫も今回は全く無視。彼女に軽くいなされてフリーズの我が猫を抱えて家に帰った。年上の雌には要注意。人間でも猫でも。

戻る