風の軌跡(108)

無題

「この暑さは変ですよ。紫外線で肌がひりひり、痛いくらいだ」汗びっしょりで戻って来た社員が言った。「温暖化でオゾン層の綻びがよほど大きくなってるのじゃないですか。きっと皮膚癌の人が増えますね」

都心の大手町あたりでは40度近くまでなったという。人の正常時の体温が36度前後、40度と言えば4度高い高熱で誰でも慌てて病院に駆け込むだろう。人間の場合は医者の助けで、解熱剤など高熱を一時的に下げる応急処置ができるのだろうが、都市環境の場合は緊急処置がきかない。地球規模の温暖化や海から陸へと風の流れを計算しなかった都市計画の失敗などの複合的な結果であろうから、一朝一夕には戻らない。


汗を拭き拭き歩道を歩いていたら、「熱いトタン屋根の上の猫」という映画を思い出した。学生時代、映画雑誌で読んだだけだが、主演の美人の誉れ高いエリザベステーラーが、艶めかしい下着姿のまま、追いつめられたような表情で立ち尽くしている写真が印象的であった。

ストーリーは、夫やその親族との間の葛藤で悩んでいる人妻の話と記憶しているが、猫ならば熱いトタン屋根の上でぴょんぴょん跳ねた後、後先考えず飛び降りるであろう。人間となると足をしっかりつけることもできず、飛び降りることもできず、焼かれながら耐えるだけなのか、と思った。

しかし、神様はお見捨てにならない。夏休みが終わりに近づいて突然暑さが和らいだ。夕方、公園にいけば風の中に秋の気配、道路脇に生えたねこじゃらしの穂が風が通り抜ける度にいっせいに頭を下げる。トタン屋根の上も風に冷やされて快適、ぴょんぴょこ跳ねる必要もない。

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