風の軌跡(107)

運河ぞいのレストランで

セキュリティに万全はない、と言われる。事件や事故を完全に防御することは不可能。起きてはならないことが起きた時、その緊急時にどのように対処するかで、企業や人の中身が見えてくる。対処の善し悪しがその後の明暗を分ける。

三菱自動車や雪印のように、会社存続の危機にまで拡大するものや、旭化成の延岡工場火災時の同社首脳陣の見事な対応で、高い信頼を獲得したものまで、いくつでも例はあげることができる。


今回、ソニーのCCD素子の不具合について、ソニー広報室から公式なコメントをいただいた。同社が絶対的なシェアを誇る部品であり、問題が深刻になっていた。セキュリティ機器の不具合は、冷蔵庫やクーラーの不具合とは意味が違ってくる。肝心の時に機器が役割を果たさなければ、セキュリティはゼロになる。

当社の取材申し込みについて、ソニー広報室の良識ある対応に感謝するとともに、もう少し突っ込んで聞きたい部分が残っているにしても、同社への敬意を新たにしている。


激しい技術開発競争の中で、新しい機器やシステムにトラブルはつきもの。これまでも市場で大きなシェアを占める機器や、多数の納入実績のある機器に問題が生じたり、新しい犯罪に対処出来ない例はたくさんあった。情報が入って来ても、それへの対処を取材することは、一切お断りという企業が多かった。しかし、これからは、トラブルはトラブルとして明快にその問題点とその対応を公開することが企業の責任であり、信頼に繋がるとも思う。


広島平和記念日の夜、、晴海の運河沿いのレストランで人と会った。相手とは初対面。自分史を書いていて、内容は陸軍の諜報部員として中国に渡り、中国人として暮らした日々から、戦後、偽名で帰国し大きな広告会社に勤めながら中国語の通訳として日中国交正常化まで、政界の影の部分で活躍した半生。名前をいくつも持ちながら生きてきた人生は本人が言うように「ドラマの題材」としては面白いかもしれない。

「交遊禄なので、辛辣に書いている人や企業の恥部になる箇所もあり、某会社の社長に見せたら、出版を思いとどまってくれと重役がメロンを持ってくるのです」と笑った。

灯かりを煌煌と点した遊覧船が、目の前を通り過ぎていく。河向こうの大きな建物を指差しながら「17、8年前、癌になって以来、あの病院で献体患者として癌治療の実験台になっている」ともいった。

戦後59年、「何のために本を書くのですか」「自分のために」

老兵は忘れられたままで、黙ってこの世から去るのが寂しくてたまらないのだろう。

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