風の軌跡(101)

首輪を引く米女性兵士の地獄

イラクの刑務所での残虐行為の写真が報道された。普通の市民が戦場に駆り出され、いかに残虐になりうるかを、まざまざと見せ付けられる。

誰もが確信的に有り得ると想像しながらも、いざその残虐な映像を見せ付けられると嫌悪感が出て、その罪を負わせるべき犯人探しを始める。米大統領の調査の後、当事者の処罰を約束する言葉を聞きながら、これは氷山の一角、少数の生け贄に人々の目が奪われているうちに、はるかに大きい組織的な事例は、闇から闇へとほおむり去られるだろうと考えるのは私一人ではないだろう。

過酷な運命のイラク人がもちろん一番気の毒だが、地獄に参加した米国兵も気の毒。異常な世界の出来事を平和な世界で裁かれるのだから。イラク人の首輪を引いた女性兵士、生きるか死ぬかの戦争では善悪の境がなくなる。


一方、平和な日本では、映画やゲームの中でも凄惨なリンチや暴力シーンが増えて、残虐さが刺激的な遊びの楽しみになりつつある。ネット上で犯罪予告を書き込む高校生、今、甚大な被害を与えているワーム作成の犯人もドイツの高校生と言う。ネット社会は遊びと現実の境目が低くなり、戦場と同じく善悪の境目が見えにくい。人間の頭は狂い、神の領域は悪魔に代わったのか。


米国の大脳生理学者ポール・マクリーンは人間の脳機能を3つに分類した。一番深層が感覚や身体を司る爬虫類型脳、2つめが感情を司るアニマル・ブレイン(動物脳)、3つめが大脳皮質と呼ばれるヒューマン・ブレイン(理性脳)だという。大脳皮質は更に右脳(イメージや感性)と左脳(思考や言語化)に区別され、全ては複雑に連携している。神や悪魔の概念は爬虫類型脳でも動物脳でもなく、全てはヒューマン脳分野、妄想したり善悪の判断、ネット犯罪、大量殺戮も人間の所業。ヒューマン脳で企んだもの。

近年増えたアルツハイマー病などは、ヒューマン脳が壊れ、記憶を無くし、遺伝子の中に込められた生命の歴史を逆戻りしはじめたということだろう。徘徊老人も、家族の記憶を喪失し、ヒューマン脳は壊れても感情がある動物脳は健在だから、食欲、睡眠欲、性欲は残っている。ただ動物脳は人間脳ほど欲張らないから、不良老人ほど悪でなく間違っても援助交際などしないようだ。


人間の運命は墓に入るまで分からないから私の先行きも物忘れが進んで、動物脳に移籍したら・・・。足元に擦り寄る猫の甘―い鳴き声を聞いていたら、うん。楽かもしれない、首輪を引いた女性兵士の地獄は味合わなくてすむ。

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