風の軌跡(100)

貴重な有性卵

「日本の樹木は繊細でやはりいいですね」タクシーの運転手さんがしんみり言う。この季節になると車窓に映る花や街路樹の話が多くなる。あちこちの樹木の観察日記を付けているのだという。

「良い趣味ですねえ」と感心すると、「昨日の日記は・・・」等とごそごそ左手でノートを引っ張りだし始めた。「いいの、いいの、もうすぐ降りるから」慌てて断った。行きずりの人とは行きずりの関係、プライベートを出されると面倒になる。


転勤の季節、官公庁から大企業まで人事異動で、せっかく親しくなれた方々がいなくなる。仕方のないことだが慌ててしまう。内部の機構が変わり、英語をそのままカタカナで現した部署が増え、口をモゴモゴしながらやっと覚えた、と思うと、また、別の名前になったり。心配しながら出かけて、席の配置は変わっても顔見知りの方々を見掛けるとほっとする。仕事柄、企画や記事を作る時にアドバイスや情報をいただいたり、協力して下さるキーマンのような方は大切。密接な関係を維持したくて追尾カメラのように姿を追ってしまう。


テロの警戒が厳しくなり、電車内でも不審者や不審物への注意を促す放送が繰り返されている。「何といってもNBCテロが恐い。天然痘等・・・」ついついワクチンは足りるか、と言う話になる。

「足りなければ優先順位をつけて配るんじゃない?まず国を守る警察・消防、自衛隊などが最優先、公務員、若い男性、子どもも大切、若い女性も子どもを産んでくれるから・・・」喋っているうちにふと気づいた。私達のような年配の女性は一番最後では?「ワクチンで救ってもらえると期待しないことね」今の内ならジョークで笑える。


「美味しい有性卵をたくさんもらったから、届けて上げる」近くに住む仕事関係の知人から突然電話があった。

「有性卵? ええー・・・」「スーパー等で売ってる卵は無性卵。めん鳥ばかりで大量生産しているけど、有性卵はちゃんと雄鳥がいて生む。生きてるから栄養があって元気が出るよ。なかなか手に入らない」

そう言えば先日、ワクチン作りには大量の有性卵が必要だが、鳥インフルエンザの影響で品不足と言うニュースをテレビで見た。中国料理でも半ばひよこの姿をしたグロテスクな卵料理を見たことがある。

「あまり卵を食べないから、いつのまにかひよこになって冷蔵庫のドアを開けたらピヨピヨと出て来たら・・・どうすればいいの」「まさか・・・」まさかといっても、1羽のひよこでもすぐ大きくなってコケコッコウと大声を上げるようになったら・・・困る。有性卵は遠慮しよう。NBCテロの時も覚悟をしなくちゃあ

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